この夏の贈りもの
「いないよ」


「え? チホ、好きな人いないのか?」


「うん、いない」


男子なんて大嫌い。


人の胸ばかりを見てからかってきて、下心を隠そうともしない。


男の先生だって同じだ。


授業中あたしの向けられる視線は胸元へ注がれているのを、あたしはちゃんと知っている。


「それって人生損してるなぁ」


残念そうな口調でそう言ったのは裕だった。


裕は机の上に胡坐をかいて座っている。


「損?」


「あぁ。だってさ、好きな奴いたら毎日楽しいじゃん」


「そう?」


あたしは裕の言葉に首を傾げた。


あたしも昔はそんな人がいた気がする。


でも、昔過ぎてその時の感情なんて忘れてしまった。


「いいんだよチホはそのままで」


なぜだか嬉しそうな表情を浮かべてそう言ったのは唯人だった。


「昨日から思ってたけど、唯人はチホに甘いな」


裕が呆れたようにそう言った。


「なにがだよ」


唯人は笑みを浮かべたままそう聞き返す。
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