この夏の贈りもの
「弘美ちゃんの事を迎えに行くよ。大人になったら必ず迎えに行く」


大空が真っ直ぐな澄んだ声でそう言った。


弘美ちゃんが動きを止めて大空を見つめた。


「こんな恥ずかしい言葉まで、僕が他人に話すと思う?」


あたしの心臓を通じて、大空の鼓動が聞こえて来るような気がした。


とても緊張していて、だけど逃げずに真っ直ぐ弘美ちゃんと向き合っている。


その姿は、素直にカッコいいと思えた。


「嘘でしょ……?」


弘美ちゃんが唖然とした表情であたしの体に近づいてくる。


そして、手を伸ばした。


あたしの体に触れるかと思いきや、弘美ちゃんの手はあたしの体をすり抜けてしまった。


ハッと小さく息を飲む弘美ちゃん。


さっきまでその場にあった大きくて立派な家が、音も立てずに崩れていく。


そう、これは弘美ちゃんが作っていたイメージだったんだ。


昔自分はここに住んでいた。


いつか大空が迎えに来てくれると言っていた。


それまでの間、自分が生きていた頃のイメージを壊さないよう、大切に大切に守って来たのだ。


「今まで勇気が出なくて弘美ちゃんに会いにくることができなかった。でも弘美ちゃんはずっと待ってくれていたんだね」


大空の体が自然とあたしの体から抜けていくのを感じる。


あたしは一歩後ずさりをして、完全に大空から離れた。


だけど心にはしっかりと温もりが残っている。
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