この夏の贈りもの
☆☆☆

夜になり、あたしはいつもの宿直室に横になっていた。


大空や有馬の成仏を思い出すと大きなため息が出て来る。


みんな未来に明るい希望を抱いていたのだろう。


あの2人だけじゃない、残りの3人だってきっとそうだ。


明るい未来を夢見て生きていたのに、その命が突然奪われた。


「あたしだったら……」


蛍光灯の明かりに寄って来た虫が飛んでいる天井を見上げて、呟く。


「あたしだったら、未練なんてなにもないのに」


思っていたことを口走ると、胸の奥が苦しくなった。


あたしには好きな人もいない。


叶えたい夢もない。


仮に今死んだとしても、あたしは簡単に成仏するような人間なんだろう。


死んでいるのに眩しいほどに輝いている彼らを見ていると、自分の人生がどれだけ灰色だったのかがよくわかった。


夢を見つけるより先にイジメられてしまった。


好きな人と付き合う前に、その本性を知ってしまった。


そして、逃げるように霊媒師の見習いを始めたんだ。
< 93 / 218 >

この作品をシェア

pagetop