雨を待ちわびて
-Ⅰ-待ってた訳じゃない
…はぁ、…はぁ。足が縺れる。もう…歩くのも嫌…。疲れた。
此処は?……私…、もう…、どうでもいい…。
…フ、…、頑張ってるよね?こんなんでも…まだ生きてるから。…ただ生きてるだけ。
はぁ。……寒い…。
…もう、どうなってもいい。


ん…?雨…、止んだ?

「お姉さん?濡れてるじゃないか。この傘やるよ。俺ん家、もう近いから」

あ…誰?冷たく鋭い目だった…。…シベリアンハスキー?
ううん。…フッ、人間だ。…大きな人間の男、…。全身黒ずくめの…男。…男だった。
差し掛けたられた傘の柄を握らされた。

「じゃあな」

…大きな…黒い傘。
…。
フ…してる事と、……目つきが何だか違う。…掛け離れている。貴方は…優しい人なんだ…。

「ちょっと待って…」

男の腕を掴んだ、…つもりでスーツの袖を辛うじて摘んだ。

「…ゲッ、何…」

人を化け物みたいに言わないで。確かに…化け物みたいなモノかも知れないけど。

「はぁ…お願いがあるの…」

「は?」

「家、近いって言ったでしょ?」

「あ?あぁ、まぁ、な」

「…泊めて」

「はっ?!」

いきなり?おいおい…。見ず知らずの素性の知れない男に、いきなり何言ってんの…大丈夫か…。
こんな濡れた格好で…、俺みたいな男に…無防備にも程がある。これだから…、強姦殺人なんか起きるんだぞ…。

「はぁ、あのな…」

「無理なら、…お風呂だけでも使わせて。お願い…身体、綺麗にしたい、…綺麗に洗いたいの。…お願いします。それと、着替え…服も、貸して…」

直ぐには帰れ無い。でも、明日、…とにかく一度は部屋に帰らないと。

「は、風呂?そりゃ、濡れてるのは解るけど。家、遠いのか?とにかく…、家あるだろ?自分家に帰れよ…」

帰れるだろ?傘、やっただろうが…。まさか…、住むとこが無いって訳じゃ無いだろ?
見た感じちゃんとしてそうだし…。何か訳ありか。

「…お願い、もう、…寒い。今は……嫌、なの。お願いします、…今夜だけ。お願い…」

しゃがむようにゆっくり崩れ落ちた。

「あ、おい!」

何が嫌なんだ。寝ちゃったのか?んな訳無いな。…力、尽きたって事なのか?…一体何があったんだ、…。
袖は摘んだまま離さないなんて、…凄いな。これって執念ってやつか…。必死だな。
ふ、ん…、まあ、ここまですりゃあ見上げた根性だな。……はぁ、さて…どうすっかな。あ゙〜…面倒な事になったな。
このまま見捨てたら犯罪か?…連れ帰っても犯罪になるんじゃないのか?それ、俺が言う?
んー、ま…、仕方ないか。俺に声掛けられた運命だと思えよ。…望み通りにしてやるか。

「お姉さん、本当に俺ん家に行くのか?ねぇ?お〜い。いいのか?」

「…う、…ん」

承諾なのか、ただ声が洩れただけなのか、よく解らないけど。…ふぅ。

「じゃあ、行くぞ。おんぶするけどいいよな」

よっこらしょっ、と…。

…。

「おい。おい?」

あれ?今の一言で限界だったのか。……何だ?返事無いけど。気、失ったのか。はぁ。
まぁ、俺ん家に行きたいって言ってんだから、とにかく行きますか。
傘やっただけなのに。やりなれない事はするもんじゃないな。あっさり捕獲されちゃったのか俺が。
フッ、俺とした事が…。迂闊だな。綺麗なお姉さん相手だと簡単って事だな。
< 1 / 145 >

この作品をシェア

pagetop