愛しすぎて、寂しくて

優しい嘘

旦那はオレの顔を見ると

「貴方がユリコの相手の方ですか?」

と聞いた。

オレは突然の訪問に少し焦っていた。

「…ユリコさんに何を聞いたんですか?」

「ユリコは貴方が好きになって別れたいと言ってきました。」

ユリコが旦那と別れたいのは知っていたが
旦那の同性との浮気を原因にせず
自分から悪者になるのは思いもかけないことだった。

修羅場になるのかと思いきや
旦那はユリコをオレに託そうとしていた。

旦那も旦那なりにユリコに悪いと思っていたようだ。

そしてユリコはオレのために旦那と別れようとしている。

オレ達は寂しさだけで繋がったけど…
いつのまにかオレもユリコも二人の間に愛を感じていた。

だけどオレはユリコの人生を引き受けるつもりはなかった。

ユリコはいつか子供が欲しいと言っていたからだ。

オレではユリコを幸せには出来ない。

「あの…オレはユリコさんとは一緒にはなれません。」

「それなら今までどういうつもりでユリコと付き合ってたんですか?」

「ただ遊んだだけですよ。
夫に抱いてもらえないっていうから寂しかったんでしょう?
だからちょっと遊んでやっただけです。

本気になられても困るんだけど…」

オレは最悪の男を演じた。

案の定、旦那には殴られた。

そしてそれきりユリコとは連絡をとらなかった。


「カオル…最近元気ないね。何かあった?」

相変わらずジュンはオレの心配ばかりする。

「ジュン…オレと寝てくれよ。
ハルキさんに内緒で寝よう。」

ジュンは困った顔したけど

「わかった。何とかする。」

と言った。

相変わらずオレには甘いんだから。

「バーカ、冗談だよ。できねーからバカにしてんだろ?」

その夜、ジュンはオレの部屋に来た。

「何で?」

「カオル…何かあったんだよね?
アタシでよかったら何でもする。

結婚してるからHとかは無理だけど…
一緒のベッドで眠るのは出来る。」

「どうせ役に立たないからな。」

ジュンはオレを抱きしめる。

「カオルは大事な友達だもん。
オーナーにはちゃんと話してきた。」

「じゃキスしてくれよ。」

オレはジュンに意地悪したくなった。

ジュンは少し迷ったが…

「うん。」

と言って瞳を閉じた。

「ハルキさんに何て言うんだよ。」

「大丈夫。キスは外国では挨拶だし…それなら出来る。」

ジュンはどこまでも優しくてばかなヤツだ。

「そんな心のないキスなんか要るかよ‼
舌とか入れるぞ。」

オレの冗談はそこまでだった。

「カオル…好きな人いたんだよね?

何があったの?

またアタシの時みたいに逃げたの?

お願いだから幸せになってよ。

どうしていつも自分から手放すの?」

ジュンはオレを抱きしめたままそう言った。

泣きながらオレの幸せを願うジュンに胸が苦しくなった。

「わかったよ。だから泣くなよ。」

その夜ジュンはずっとオレの側にいた。

結婚してもオレとの仲を大切にしてくれる愛しい友達だ。

オレはあの時ジュンを手放した事をずっと後悔してた。

「ジュン…オレの好きな女は子供が欲しいんだって。」

ジュンは悲しそうな顔をした。

「カオル…病気治しに行こうよ。
頑張って治療したらきっと治るから。」

「でも…治らなかったら?」

「それでも彼女はカオルが好きなんだよね?
だったら手放さないで。」

ジュンはそう言ったけど…

オレはどうしてもユリコと一緒になる覚悟が出来なかった。

次の日、ユリコが会いに来た。

「やっと捕まった。

カオル…ごめんね。
あの人が急に来てビックリしたでしょ?

でもどうしてあんなこと言ったの?
あの人に殴られたんでしょ?

本心じゃない事くらいわかってるんだから。」

「悪いけど…一緒になる気はねぇよ。

だいたいオレ達は寂しさを紛らわすために肌を合わせただけだろ?」

「悪ぶらないでよ。」

ユリコは笑ってる。

「オレと居てもガキ作れねぇし…
お前みたいな女を養えるような経済力もない。」

「安心して。アタシも一緒になる気なんて無いから。

さよなら。今までありがとう。

今日はそれだけを言いに来たの。」

ユリコはそれ以上何も言わずにオレの部屋を出てった。

さすがに愛想をつかされたんだろう。

その後ユリコとは逢わなかった。

好きだったけど…逢いたかったけど…
オレじゃユリコを幸せには出来ないから。

ところが1ヶ月後、ユリコが旦那と別れた事を知った。

ユリコはオレのところに来なかった。

別れたことは旦那がわざわざ言いに来た。

ユリコから切り出して出ていったそうだ。

「どこ行ったんですか?」

「山形の実家です。
ユリコはホントにあなたを愛してました。」

旦那は場所を書いた紙をオレに渡した。

だけどオレは暫く逢いにいけなかった。

ユリコに逢うのが怖かったからだ。

それでもどうしても逢いたくなって

半年後になって、ようやくオレはユリコの様子を見に山形に出掛けた。

しかしユリコは実家には居なかった。

何とか場所を聞き出してオレはユリコを訪ねた。

そこで見たユリコにオレは愕然とした。

ユリコは病院のベッドにいた。

ユリコの綺麗な髪は失われ
ユリコは帽子をかぶっていた。

かなり痩せていてオレはユリコの死が近いことを知った。

「ユリコ…」

ユリコはオレの姿にビックリしていたが
すぐに笑顔になった。

「バレちゃったね。

私ね…あの時、あの人と別れる理由を探してた。

ホントはね、あの人に好きな人がいてホッとしてたの。
相手が男だったのは意外だったけど…

カオル…私にはもうあんまり時間が無いの。

あなたにも黙って逝くつもりだったのにな。」

ユリコが子供が欲しいって言ってたのは
そういえばオレがユリコを手放すと思ったからだ。

ユリコはオレよりもずっと嘘つきでオレを愛していた。

「ユリコ…オレが側にいるよ。
だから頑張って生きてくれよ。」

ユリコは頷いた。

「ありがとう。

カオル…1つ仕事を頼んでもいい?」

オレは頷いた。

ユリコの望むことは何でもしてやりたいと思った。

「私ね…カオルにもこんな情けない姿は見せたくないの。

あなたと愛し合ってた元気な頃の記憶だけ覚えていて欲しい。

それが私からの最後の依頼よ。」

ユリコは旦那をホントに愛していて別れるために
オレに証拠を探させた。

そしてオレと肌を合わせてただ生きてる実感を得たかったのだ。

そして今はオレを愛してるんだ。

「ユリコ…オレを愛してた?」

ユリコは首を横に振った。

「遊んだだけよ。
最後に誰かと恋愛ごっこでもしないと寂しすぎるじゃない?」

オレはユリコが嘘をつくと知っていた。

聞いたのはここでユリコの願うように
ユリコと別れるためだ。

「さよなら。依頼は引き受ける。
お前の元気な姿だけ覚えて生きるよ。」

「さよなら。」

ユリコは涙も流さなかった。

もう流す涙も残ってなかったのかもしれない。

ホントは側にいたかった。

だけどユリコはそれを望まないだろう。

オレを苦しめたくないから…

オレはたまに遠くからユリコの姿だけを見に来た。

日に日に痩せて衰えていくユリコの姿を見るのは辛かった。

結局それから3ヶ月もしないうちにユリコはこの世を去った。

最後にユリコの母親から手紙を渡された。


………………
私の元気な姿を覚えていてって言ったけど…

あれは嘘。

私のことは綺麗さっぱり忘れて下さい。

そしていい人と出逢って幸せになって下さいね。

これがホントに最後の依頼です。

少しですが依頼料を入れておきます。

さよならカオル…愛してました。
………………

ユリコの字は乱れ…死の直前に書いたものだと思われた。

そしてユリコがいつもつけていた結婚指輪が入っていた。

「依頼料はこれか。」

そこにはユリコが生きた証があった。

オレはそれを首にかけてたチェーンに通して今でも身に付けている。

それから依頼されたことを守るため
ユリコを忘れる旅に出て一年が過ぎた。

再びRed Coralにオレは戻ってきた。

「カオル…カオルぅ。」

ジュンは相変わらず綺麗だった。

また泣きながらオレを歓迎してくれた。

「オレね、ちゃんと好きな女見つける。

治療もする。」

オレはユリコとの約束を守って幸せにならなきゃいけないと思った。

「うん。」

ジュンはとても喜んでくれた。

その顔を見ると幸せになる。

ジュンのためにも幸せになるべきだと思った。

もうジュンを悲しませたり困らせたりしたくない。

そしてオレは今日もRed Coralで依頼人を待っている。

とびきりのいい女があのドアから入ってくるのを期待しながら…



Fin


~便利屋 カオル のお話はまたいつか公開致します。~

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