ロストマーブルズ

 キノが向かったその先の道路際に、白いセダンの車が停まっていた。

 ノアが運転席に前を見据えて無表情で座っていたが、その隣の助手席にも、表情厳しい男が座っている。

 その二人の存在を確認すると、キノの表情は固くそして心はどっしりと沈んでいく。

 恐れと苛立ち、そして逃げたくなる気持ちに立ち向かい、躊躇いながらその車の後部座席のドアを開けた。

 そこにツクモを先に乗せ、後から自分も暗い表情で乗り込む。
 助手席に座っている男と面と向かうのが苦しかった。

 ドアを閉めると、ノアがエンジンを掛け、そして行き先も告げずに車は動き出した。

「(そんな顔をしているところを見ると、悪いことをしたと分かっているようだな。しかし子供野球の試合鑑賞は楽しんだみたいだね。それとも隣に居た彼とのおしゃべりを楽しんだのかな)」

 助手席に座っていた男が前を見据えたまま、英語で静かに語った。

 キノは黙って窓の景色を見つめていた。
 その男には逆らえないはずなのに、黙り込むことで精一杯抵抗する。

 助手席に座っていた男はため息を吐く。そこには呆れた気持ちも入っていたが、同情する気持ちも込められているのか、それ以上話すのが躊躇われた。

 しかし、指導者として敢えて厳しくする。
< 192 / 320 >

この作品をシェア

pagetop