ロストマーブルズ
 ジョーイは過去の自分の記憶をトニーに語りだした。

 家の爆発のこと、父親が行方不明なこと、そしてアスカが目の前から消えてしまったこと、なぜ自分の感情が欠如してしまったのか、子供の頃に受けたトラウマを説明していた。

 トニーも真剣にジョーイと向き合い、ジョーイの気持ちを汲み取るように頷きながら聞いている。

 ジョーイが心を開いて話をしてきたことに、頼られている嬉しさも感じているようだった。

「そうか、そういうことがあったのか。そんなことも知らずに、俺は時々ジョーイに対して無神経なことを口走ってたのかもしれないな。すまなかった」

「トニーは何も悪いことなんてしてないよ。寧ろいつも俺を励まして、俺のために努力してくれていたよ。謝らなければならないのは俺の方だ。それにずっと甘えてたんだからな」

「なーに、それはお互い様って言うことでいいじゃないか。これでようやく俺はジョーイと分かり合えたような気分だよ。アスカがキノかどうかは分からないけど、でもキノは確実にジョーイに変化をもたらせたみたいだな。もう勢いで付き合っちゃえよ」

「えっ、お、俺が付き合う?」
「ああ、俺が言えた義理じゃないけど、キノと付き合えば過去のトラウマが改善されるような気がする」

「そんな治療みたいに言われても」
「何言ってんだ、俺は恋をしろって言ってんだよ。完璧なお前に唯一つ足りないのが女だったからな」

「恋……」

 女のことはトニーに任せろというくらい、その晩、遅くまでトニーのレクチャーが行われた。

 お陰で次の日二人は寝不足だった。
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