ロストマーブルズ
 キノは困惑し、どうすることもできないもどかしさで、泣きそうな目をジョーイに向けた。

 おそらくこれが最後かもしれない。

「ジョーイ……」

 ありったけの気持ちを込めて名前を呼んだ。

「キノ、ツクモを連れて先に帰ってなさい」

「でも」

「いいから帰りなさい」

 キノは言われるままに、ツクモを連れて歩きだす。

 そして振り返ってジョーイを悲しげに見つめた。暗くてジョーイからは見えなかったがキノの瞳は涙で溢れていた。

「さて、ジョーイだったね。私はノア。キノの兄だ」

「お兄さん?」

 ノアは全くハーフの風貌がない。だが日本人というよりも、アメリカに住んでいるアジア人という雰囲気があった。

 そして以前にも見たことがある。

 威厳に溢れ、背筋を伸ばし、きびきびとしている。

 背がすらりと高いだけに、目の前に立たれると圧迫される。

 そのとき、ジョーイははっとした。初めてキノと会ったときに、電車で見かけた人物だと思い出した。

 あの時は眼鏡を掛けていたが、確かにこの男だったとはっきりと思い出した。
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