ロストマーブルズ
「おい、何も逃げることないだろ」

「だって、すぐに絡んでくるから怖くて」

「そんなでかい体つきしていて、何が怖いだ」

「だからその言い方が怖いじゃないですか。一体僕になんの用です?」

「そうだ、お前いつかキノを追いかけていたよな。一緒に電車から降りようとしてたけど、キノに煙にまかれて降り損ねただろ。一体あれは何をしてたんだ?」

「キノって、あの黒ぶち眼鏡をかけたハーフの女の子のことですよね。あの子に直接お礼をいいたかったんです」

「お礼?」

「はい、以前電車に乗っていたとき、同じ学校の生徒も乗ってたんですけど、なぜか僕が痴漢みたいに思われたのか、じろじろ見られてしまって。それで誤解を解こうとしてたんです」

「あっ、あんた詩織が言っていた痴漢だったのか」

「違います。人聞きの悪いこと大きな声で言わないで下さい。僕は何もしてません。あの時そう思われてしまい、なんかもじもじしたのが余計に誤解を招きました。その時、あの子が『動かないで』って僕の耳元で囁いたんです。そして自ら倒れこんで、あの時の雰囲気を変えてくれました。それでふと僕の隣に居た男性の手の甲が見えたんですけど、ペンで”ちかん”って書いてあったんです。男性も気がついてドサクサに紛れてどこかへ移動していったんですけど、あれは僕を助けてくれたに違いありません」

「やっぱり、キノはわざと行動を起こしてたのか。あいつは本当にスーパーヒーローだったんだ」

「スーパーヒーロー?」

「いや、なんでもない。こっちの話だ。とにかくだ、詩織にその話をすればいいじゃないか。きっと詩織なら信じると思うぜ。そして誤解も解けるだろう。話を聞いてくれそうになかったら、俺の名前を言えばいい。ジョーイと友達になったとかなんとか」

「ジョーイ?」
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