ロストマーブルズ
「おい、ツクモ何してるんだよ。遊んでる暇ないぞ。早く行こう」

 ずっと命令を素直に聞いていたツクモが、この時ジョーイが急かしても、耳を傾けることなく、それは梃子(てこ)でも動きそうにもなかった。

 ジョーイはどうすべきか考えている間も、小学生達は無邪気にツクモを取り囲み、ひっきりなしに小さな手を伸ばして、甲高い笑い声を添えている。

 まるで触手のように、いろんな角度から伸びた沢山の手が、ツクモの頭や体をベタベタと触っていく。

 嫌がることなくすべてを受け入れているツクモの眼差しは、優しく穏やかだった。

 だがひっきりなしにこれだけ沢山の子供たちから触られれば、そのうち剥げるんじゃないかとジョーイが心配しだした時、ツクモが急に立ちあがった。

 前を見つめて尻尾を振り、ステップを踏んでそわそわしている。

 それにつられてジョーイも、はっとするが、そのツクモの視線を辿れば、表情が曇った。

 そこには、あの生意気な聡がこっちに向かって歩いてくる姿があった。

 思わず、嫌な気持ちが露骨に顔にでて、一気に気持ちが萎えてしまった。

「なんだよ、ツクモ、アイツに会いにきたのか」

 まさかの結果に、ジョーイは頭を抑え込み、そのまま眩暈して倒れそうになっていた。

 それとは対照的に聡は、ツクモを見つけると、ワクワクと目を輝かせて、一目散に駆け寄ってきた。

「キノが来てるのか?」

 期待一杯に、澄んだ瞳で、大きく首を左右に振って辺りを見回していた。

 何も事情を知らない聡がその時気の毒に見えてしまい、ジョーイは無言で首を横に振ると、聡はあからさまにがっかりと、肩を落としていた。

 この時、ツクモは口に銜えていたフクロウの縫いぐるみを、聡の足もとに置いた。
 それを見るや否や聡は、目を丸くし、大きく口を開けて驚いている。

 そして説明して欲しそうにジョーイに視線を向けた。
 ジョーイは細い溜息を吐きだしながら、かったるくフクロウの縫いぐるみを拾い、軽くはたいた。

「おい、そのフクロウはお前のか?」
 聡が聞いた。

「ああそうだ。なんだよ、バカにでもするのかよ」

「それじゃ、お前なのか?」

「ん? 何を言ってるんだ?」

「とにかくついて来いよ」

 聡はランドセルの位置を整えるように肩を一度上げて、歩き出した。
 その後をツクモが尻尾を振ってついていく。

「おい、どうなってるんだよ」

 先を歩く聡とツクモに、ジョーイは駆け寄っていった。
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