ロストマーブルズ
 簡単に開けられる缶の蓋を、わざと開けられないフリをしてビー玉をジョーイの目の前で散らばせたのも、そして『I lost my marbles』と言ったのも全てアスカとしてジョーイに発したメッセージだった。

 あの黒ぶちの眼鏡も、フクロウの縫いぐるみを思い出して欲しいと、自らフクロウを意識してやっていたことだった。

 全てに意味があり、やっと繋がった。

 やはりジョーイが感じた感覚は正しかったことになる。

 キノは真実を口で告げられなかったために、こんな遠回りのメッセージを送っていた。
 やはりジョーイに会いに来ていた。

 ──アスカがキノ、キノがアスカ

 名前を繰り返し、そこにもヒントがあったことにもジョーイは今更ながら気がついた。

 日本語の音で考えれば”明日と昨日”。

 キノがここまで計画していたのだから、そういう意味も込められているといっても過言ではないのかもしれない。

 転がったビー玉は全てのことを繋げて見事着地地点にゴールした。

 ジョーイは何度もそのビー玉を太陽に翳して、自分の元に辿り着いた奇跡を心から感謝していた。

「余程、キノから贈られた大切なものだったんだね」

 聡は羨ましく思いながらも、無邪気にはしゃいでるジョーイを見ていると、笑わずにはいられなかった。

「聡、ありがとうな」

 ジョーイは聡に右手を差出し握手を求めると、聡は照れながらもしっかりと得意げにジョーイの手を握り返していた。

 お互い生意気だった者同士は、その瞬間心が通うように、とっておきの笑顔を見せ合った。

「それじゃ俺、帰るわ」
「お兄ちゃん、待って。あのさ、時々、ツクモつれて遊びに来いよ」

「ああ、そうだな。それじゃ、早速今週の土曜の午後、キャッチボールでも一緒にやるか?」
「うん! 約束だよ」

「ああ」

 ジョーイは聡に思いっきり笑って、答えていた。

 ツクモを呼び寄せ、そしてジョーイは家路に向かう。

 振り返れば、聡はまだジョーイを見ていた。

 大きく手を振れば、聡は両手で大げさに振って返してきた。

 ジョーイとキャッチボールできることが、余程嬉しかったのかもしれない。

 かつて父親とキャッチボールをした事を思い出し、ジョーイも全てを受け止めたい一心で、急にやりたくなったことだった。

 もう逃げはしない。卑屈にならない。諦めない。

 他にもネガティブだったいろんなことを含め、ジョーイは自分の殻をやっと突き破った。

 アスカも同じように苦しんできたに違いない。

 それでも、キノと名前を変えて、自分の役に立つことをやりたいと、覚悟を決めてそれに挑んでいた。

 だから、いろんなところで、事件に首を突っ込んでいたのだろう。

 そして、危険とわかっていながらも、ジョーイに会うためにやってきた。

 ジョーイはキノと過ごした事を思い出しながら、首を上げ、空を見つめる。

 短かったほんの僅かな時間でも、永遠に心に刻まれるほど大切な時だった。

 その意味を深く考え、自分ができること、それは何なのか、ジョーイは真剣に向き合おうとしていた。
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