ロストマーブルズ
 カウンセリングを終え、廊下を歩いて受付を通り過ぎ、ガラス張りの自動ドアを出ると、エレベーターがあった。

 下に下りるボタンを壊れるくらいに強く連打する。

 エレベーターは5階で止まっている。

 3階に下りて来るまでイライラするのか、ジョーイは右足を無意識にゆすっていた。

 その階にやってきた事を示す表示ランプが赤から緑に変わると共に、軽やかなベルの音がエレベーターの到着を知らせる。

 ドアが開くと、既に乗り込んでいた数人の乗客が、一斉にジョーイに視線を向けた。
 ジョーイの風貌が、一般の日本人と違うと、興味本位でジロジロ見ている。

 面白くないと仏頂面でジョーイはエレベーターに乗り込み、くるりと向きを変えて、ドアの前に立った。

 ゆっくりとドアが閉まると、扉はメタル仕様のために、後ろの乗客が映りこんでいるのが見える。
 そして全ての人間がジョーイを見ていた。

 ジョーイが日本に来てから、このようにいつも人の視線を感じていた。
 気のせいと言いたかったが、ハーフと呼ばれるものは珍しがられて人々の好奇心をそそる。

 叫びたいのをいつも我慢して無視しているが、たまに道を歩いているだけで、好奇心旺盛の女子高生達の視線と、こそこそと本人の前で話し合うわざとらしい態度には耐えられなかった。

 振り向いて軽蔑の睨みをお見舞いしても、却って黄色い声が飛び交い不快極まりない。

 エレベーターのドアが開くや否や、滑るようにジョーイはその場を去る。
 ビルを出ると太陽の光がまぶしく、恨めしい。
 これでまた自分の髪の毛が金髪に近づくと思うとやりきれなかった。

 自分に西洋の血が混ざっているということだけでも、日本で暮らすには目立ちすぎる部分だが、かといってアメリカに戻ってもアジア人と部類されて、いけすかない白人からはチャイニーズとか言われる始末。

 結局はどっちなんだよと、自分のアインデンティティの確立を妨げられる。

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