ロストマーブルズ
 ──じゃあ、キノがアスカなら、俺はどうしたいんだ!?

 突然、電流を浴びたように体がビリビリといきり立つ。

「ジョーイ! 何を突然立ち上がってるんだ。びっくりするじゃないか」

「あっ、いや、早く帰りたいなってつい思って」

 自分の行動を誤魔化すが、ジョーイ自身うろたえていた。

「分かったよ。ほれ」

 トニーは勘定をテーブルの上で滑らせてジョーイに近づけた。

「はいはい。払ってきますよ」

 ジョーイは課せられた義務のように請求書を握ると、レジの前に向かった。

 トニーは口元をナプキンで拭き、満腹になったとふーっと息を漏らす。
 不意に窓の外を見ればラブラドールの犬が目に入り、さらにその隣に黒ぶちメガネを掛けた女の子がいたので、慌てて立ち上がりジョーイの元へ駆けつけた。

 ジョーイは一万円札を出しているところだった。
 そこにトニーが「キノがいた」と言ったものだから、咄嗟に出口に体が動いた。

「ちょっと、お客さん、お釣り、お釣り!」

 ジョーイはあたふたとレジに戻り、鷲づかみにするようにお札を握るが、いくらかの小銭は飛び散ってしまった。
 構ってられるかとそのまま飛び出してしまった。

「トニー、キノはどっちへ行った」
「あっちに犬と一緒に歩いていった」

 しかしその方向を見れば疾うにその姿はなかった。
 それでも二人は付近を捜す。

「絶対キノはこの近くにいるはずだ。駅前のマンションに住んでるらしいんだ」

 ジョーイはせわしなく辺りをキョロキョロしていた。
 キノに反応してこんなにも我を忘れているジョーイを見たことがないと、トニーは笑みを浮かべながら驚いていた。

「ジョーイ、やっとお前も高校生らしく熱くなったな。なんか嬉しいよ」

「えっ?」

 ジョーイは急にしぼんだ風船のように勢いをなくしてその場で立ち止まった。
 猫背のように体を前に屈めながら呆然としてしまった。
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