笹に願いを
「・・・痛くないのか?髪。抜けるとき」と天野くんに聞かれた私は、顔を左右にふって否定した。

「・・・ごめん、なさい・・っ・・・たたいて。いたかったでしょ」
「ああ。でもおまえに叩かれたからじゃなくて・・・。痛いよな。分かってたけどさ、実際そうなると、やっぱ心が痛むよな」
「私・・・耐えられるかな。自信ないよ。怖いし。卵巣がないことより、髪がなくなることの方がやっぱり・・・病気だって、治療中だって、はたから見ても分かるし。髪が・・・バサバサ抜け落ちる分だけ、私の女の部分も、なくなっていく気がする」
「見える部分だから、その分ショックも大きいって、須藤先生も言ってたよな」
「ぅん」
「なあ織江」
「なぁに、天野くん」
「結婚しよう」
「・・・え」

思わず私が顔を見上げると、そこには笑顔の天野くんが、私を見ていた。
いつもの和やかさに加えて、何かを悟ったような、どこか達観した表情もしている彼からは、笑顔でありながら、至って真面目だという印象を受ける。
でも、いや、だからか。
私は無性に腹が立ってきた。

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