笹に願いを
「・・見ないで。見ないで!」
「織江」
「来ないで!あっち行ってよ!も・・もう、わたしなんか、ひどい顔が、髪ぬけて、もっとひどく・・・うぅっ。いやっ!来ないでって言ってるでしょ!」

私の方へ近づこうとする天野くんに泣き叫びながら、両手で髪の毛をむしり取っては、面白いように抜けていくそれを、彼に向かって投げつけたり、八つ当たりするように、彼の硬い胸板をグーでドンドン叩いた。

そんなに時間は経ってないと思う。たぶん、10秒も満たないはず。
でも、疲れた私の叩く威力が弱まったのを天野くんは見逃さなかった。
それから彼にすぐ抱きしめられて、いつの間にか私たちは、床にペタンとへたるように座っていたことに気がついた。

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