笹に願いを
「健やかなる時も、病める時も。俺らはずっと豊かな心を失う事無く、何でも分かち合って生きていこう」
「うん」
「ホントに痛くないのか?」
「全然痛くないよ。無理矢理引き抜いてるんじゃないから」
「そっか。たとえ髪が抜けても、おまえが俺の世界で一番キレイな女であることは変わらない」
「そう天野くんに言われると、なんか自信が湧いてくるよ」
「その件だが」
「え?何」
「おまえも名字が“天野”になるんだ。俺への呼び方変えるべきじゃね?」
「あ・・・あぁぁ・・・そぅだね」

・・・10月15日。
外の景色にも、ようやく秋の兆しが見え始めた日。
そして、私の髪が大量に抜け始めた日。
外見がますます酷くなったその日、心から「キレイだ」と言ってくれた天野くんと、結婚する約束を交わした。
私たちは、お互いを想う愛情が揺るぎないものであることを改めて確認し、お互いの心の中で、生涯をかけて、静かに、そして大きくそれを育んでいくことを、お互いに誓った。

投薬治療を始めて20日目。
彼と正式に同棲を始めて41日目のその日の出来事は、私たちにとって、いい意味で忘れられない、ステキな思い出の日になった。

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