笹に願いを
「あの。急にそんなこと言われてもなんか・・・・・・考えさせてください」としどろもどろに私が言うと、医者は2・3度頷いて、そっと手を離した。

それを合図にするように、私は立ち上がった。
震えは多少残っていたものの、自力でしっかり立てたことに対して、私は自分を誇らしく思った。

「今なら手術を受けて治療を行えば、転移や再発する確率もそれだけ低くなります。笹川さん、生きましょう」と言ってくれた医者は、ただ私に同情しているだけじゃない。

きっとこのお医者さんは、私のような反応をする人たちを、たくさん見てきたことだろう。
そのたびに相手に同情し、自分のことのように親身になって、そして・・・この状況を受け止めてくれている。
「それが仕事だから」というキレイごとだけには見えない。
お医者さんの表情から、私はそう思った。
それだけで、あぁ私は今、ひとりじゃないんだと思えて嬉しかった。
少しだけ心がホッとした。
死に対する恐怖が、少し和らいだ気がする。でも・・・。

彼にこのことを言ったら、どんな反応するかな。

< 3 / 224 >

この作品をシェア

pagetop