笹に願いを
『俺より2歳下の彼女のことは、幼なじみ的に昔から知ってた。互いの両親にもすぐ公認の仲になってさ。それでつき合って5年経った頃に結婚しようかって流れになったんだ。周りに急かされたわけじゃない。彼女も俺も結婚するならこの人だと互いに思ってたし。ホント、流れで。その時は一番ベストな流れに乗ったと思った。だが、だんだん上手くいかなくなってさ。で、結婚生活3年目に入ってすぐ別れた。以来・・・もうすぐ5年になるが、俺はずっと独身。彼女は再婚して、たぶん子どももいる』
『今も彼女と連絡取り合ってるの?』
『いいや、全然。偶然一度会ったんだ。だんなとおぼしき男と一緒で、彼女の腹は臨月並にデカかった』
『あぁ、そぅ・・・』
『別にさ、彼女とは憎み合って別れたんじゃないんだ。互いに嫌いになったわけでもなくて・・・だがあんときはやっぱ、気まずい感じしたな。たぶんあっちも』

そう言って苦笑を浮かべた天野くんの横顔は、どことなく寂しそうで、それをごまかすようにカルピスを飲む彼は、とても孤独に見えた。
この人、まだ心の傷が癒えてない。かわいそう。
私は、「天野くん、あなたは独りじゃないよ」と言う代わりに、とんでもないことを口走っていた。

『わ、わたし、天野くんのこと・・好き、だよ』

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