【完】素直じゃないね。
だけど予想に反して、高嶺の憎らしいほどに余裕な無表情は少しも崩れなかった。
それどころか、人を小馬鹿にするような笑みをこぼした。
「勝手にすれば?」
「なっ……」
「やれるもんならやってみろよ。
お前の虚言だって、取り巻きの女たちに言うから。
お前と俺、まわりはどっちを信じるだろうな」
「なっ……」
この悪魔、イケメンという名の権力を余すことなく振りかざしてるんですけど……!
わなわな震えていると、高嶺があたしの肩に手を乗せ、耳に口を寄せた。
「痛い目見たくなかったら、このことは黙ってるのが賢明なんじゃねーの?」
甘ったるい声。
でも今は、悪魔の囁きにしか聞こえない。
立ち尽くすあたしを取り残して、高嶺が音楽室を出て行く。
遠ざかっていく足音と、自分の騒がしい心臓の音だけが聞こえる。
あたしの鼓動はこんなに乱されてるのに、あいつの足音は余裕で、何事もなかったようにかったるそうなリズムを刻んでいる。
新学期早々、あたしはとんでもない悪魔の本性を見つけてしまった。