【完】素直じゃないね。
状況をまったくもって処理しきれていないあたし。
だけど高嶺は、そんなことなんてお構いなしで、我が物顔でずかずかと資料室に入って来ると、長机を挟んで向かい側のパイプ椅子に座った。
そして頬杖をついて、あたしをまっすぐに見据える。
「で? おまえはなにしてんの?」
「な、なにって」
「あー、印鑑押しね」
あたしに訊いてきたくせに、答えを待たず、パラパラと資料を手に取って高嶺が気怠げにつぶやく。
かと思うと、唐突に片手をこちらに差しだしてきた。
「ん」
「え?」
「印鑑ひとつ貸して。俺もやるから」
高嶺もやる?
予想外の展開に、あたしは目を丸くする。
「でもっ」
「ふたりでやれば、早く片づくじゃん」
「高嶺……」
高嶺の手を煩わせたくない、そう思ってたけど。
高嶺にまっすぐ見つめられてこう言われては、拒否できるはずがなかった。
数秒躊躇って、あたしは印鑑を高嶺に渡した。
「あり、がと」
「全然」
高嶺が印鑑を押し出す。
伏せた睫毛が、目の下に影を作る。