【完】素直じゃないね。
──だけど、兄貴が死んで、簡単にその笑顔は消え去った。
まるでずっと幻を見ていたかのように、跡形もなく。
泣くことも忘れた美織は、兄貴の葬式で倒れた。
あの日。俺は、控え室の長椅子に横たわる美織に、付き添っていた。
倒れて一時間ほど経った頃、美織がようやく目を覚ました。
『……ん』
美織が目を覚ましたことにほっとしつつ、声をかける。
『美織。 気づいた?
待ってろ、今おばさん呼んでくるから』
パイプ椅子から立ち上がり、控え室を出て行こうとした、その時。
『いやっ、ここにいて』
俺の腕は、美織によって掴まれていた。
振り返れば、上半身を起こした美織は、今にも泣き出しそうな悲痛な表情を浮かべていて。
『でも、』
『行かないで、朝陽……っ』
『……え?』
美織の口から飛び出した言葉に、絶句する。
今、なんて──。
『私をひとりにしないで……。
いなくなったりしないで、ずっと隣にいて……っ。
ねぇ、お願い、朝陽、朝陽……』