【完】素直じゃないね。






あの日、俺の腕にしがみついた美織の手の感触は、今もまだ覚えてる。


ぎりぎりと、俺の腕に食い込んでくる美織の手。


それが、美織の必死さだった。

ひとりにされないように、置いていかれないように。


電車に揺られながらあの感触を思いだして、窓にもたれかかるようにして外を眺めた。








「朝陽、ごめんね! 待った?」


美織の声が聞こえてきて、俺はポケットに手を入れたままそちらを振り返った。


美織が駆け寄ってくる。

俺は柔く笑顔を浮かべた。


「いや、待ってない」


「ふふ、朝陽はやっぱり優しい。
ほっぺ、冷えてるじゃない」


美織が背伸びをして、俺の頬に手を当てた。


温めるようにして触れた後、ゆっくりとその手を降ろし、微笑む。


「ねぇ、朝陽。
急遽場所変更なんて、どうしたの?」


俺を見上げ、首を傾げる美織。

その瞳は、純粋で無垢で。

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