将来、あなたたちは離婚します。
将来、あなたたちは離婚します。
 「今、到着したよ。」彼からのLINEが届いた。小走りで駅に向かうとそこには、大好きな彼が立っていた。「待たせてごめんね。」「絵梨香が遅れるのはいつものことだろ~。」「いつもじゃないよ~。 優斗のいじわる~。 」「冗談だよ。」そんな会話をしながら、わたしたちはある施設へと向かっていた。
 電車で向かっている途中も会話は弾んでいた。「結婚式いつにしようか?」「優斗は気が早いな~。まだ、結果出てないでしょ~。」「絵梨香はダメだと思ってるの?」「冗談だよ。さっきの仕返し。」このまま、この楽しい時間がずっと続くと疑いもしなかった。
 駅を出て少し歩くと、あの建物が姿を現した。"人間心理研究所"と書かれたこの場所に来るのは、今日で2回目だ。「何か緊張してきた。」「俺は全然だけど。絵梨香とだったら絶対大丈夫だと思ってるから。」「ありがとう。わたしたちなら大丈夫だよね。」わたしたちは、施設へと入っていった。

 施設へ入ると受付がある。そこで名前を伝え順番を待った。「それにしても、すごい時代になったよな。結婚したカップルが将来、離婚するかどうかが分かるなんて。」「本当だよね。でも、これで離婚しないって言われたカップルは何の不安もなく、一生好きな人と一緒にいられるんだからうらやましいよ。のんちゃんたちもこないだ結果が出て、すごく幸せそうだったし。」
 この国は深刻な人口減少が問題になっていた。娯楽の多様化、女性の活躍の場の広がり、アンドロイドの普及による人手不足解消、どれもこの国の発展に繋がったが、人口減少に拍車をかけたのも事実である。そこで、政府は、打開策のひとつとして、離婚率の低下に伴う出生率の上昇を目的とし、このプロジェクトを立ち上げ、この人間心理研究所を主体に国をあげての研究が始まったのだ。さまざまなカップルのサンプルを採りデータを収集し、脳の作りや遺伝子レベルまで解析した。ある程度出来上がってくると本人たちには結果を伝えず、カップルのその後を観察し、結果の照合をした。こうして、長い年月をかけて、ようやく一つのデータベースが出来たのだ。このテストは国の義務ではないが、占いをしに来る感覚なのか、若者を中心に広まり、今では結婚を考えるカップルが受けに来るケースも多い。絵梨香たちもその内の1組であった。

 15分ほど待っただろうか。自分たちより前に来ていた人も減り、予約もしていたからもう少しで呼ばれるだろうと思っていたその時、1つの部屋から女性の大声が聞こえてきた。「絶対に嘘!!!!!!!こんなこと有り得ないわ!わたしたちが将来、離婚するですって!何かの間違いに決まってる!絶対にないわよ!おかしいわ!かずくんそうよね?何か言ってよ!ねえ、かずくん!」一瞬にしてその場の空気が凍りついたのが分かった。彼の顔を見ることすら出来なかった。身動きが取れずにいると、それからまもなくして、部屋から変な笑い声をあげた女性が奥の部屋へ連れて行かれたのが見えた。そして、何事もなかったかのようにわたしたちは呼ばれた。
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