専務に仕事をさせるには

私は駅裏にある小さな古い食堂へ専務を案内した。

入り口のガラス引き戸は割れていてガムテープで補強してあったり中には完全にガラスが無くビニール袋が貼られている所も有る。

ここは以前小野課長にランチに連れて来て貰って、それからは良くひとりで食べに来る。


「ここの料理は何でも美味しいんですよ」


「へぇー」


「こんばんは!」


「鈴々ちゃん、いらっしゃい! あれ? 今日は彼氏を連れて来てくれたの?」


いつも優しい笑顔のおばちゃん。


「違う違う! こちらはうちの会社の専務」


「あら、そんな偉い人にうちの店の物なんか口に合うかしら?」


「馬鹿野郎! うちの店の物はどれもどこへ出しても恥ずかしくない味だぞ!!」

と、奥の調理場から聞こえて来た店主の声。


「そうよ! おじちゃんの料理は三星レストランにだって負けやしないわ!」


「鈴々ちゃんだけだよそう言ってくれるのは! いつもの鯖の味噌煮で良いかい?」


「うん! おじちゃんの鯖の味噌煮最高だもん!」


専務はお店の中をぐるりと見て壁に貼られたメニューに目をとめる。


「では私も同じ鯖の味噌煮定食と切り干し大根煮とそれから、れんこんのきんぴらを下さい」


専務って結構地味な物食べるんだ? 意外…


「鈴々ちゃんが来たという事は今日だったかい? 発表会は?」


「うん。 無事プレゼンは終わったからご飯つけてね?」


厨房から分かってるよ!と声が聞こえる。


「なにリンリン米食べてなかったのか?」


「うん! 基本夜は炭水化物は食べない。 でもプレゼンが終わった夜は食べるの」


「こんなにスタイルいいんだから気にしなくていいのに」

と、おばちゃんは言いながら鯖の味噌煮定食を2つテーブルに置いてくれる。


「何事も努力しないと維持は出来ないものよ!」


私は専務が、鯖の味噌煮を食べるのをじーと見る。





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