あの頃、きみと陽だまりで



それから、迎えた6日目の早朝。

早坂家の台所には、真剣な顔つきで手を震わせながら大根を切る私と、トラをかかえハラハラとした様子でその光景を見守る新太の姿があった。



「なぎさ……大丈夫?代わろうか?」

「い、いい!私がやるの!」



いつもならこの時間は、ラジオ体操を始める前に新太がひとり朝食づくりをしている時間。

けれど今日は私がめずらしく早起きをしたうえに『作りたい』と申し出たことにより、ラジオ体操そっちのけで朝食づくりをしている真っ最中だった。



「手切らないでよー?指入り味噌汁なんてやだよ」

「わ、わかってる……」



私だってそんなのいやだ。

切らないように、気をつけて……肝に銘じながら、固い大根を包丁でダンッと勢いよく切る。

その衝撃で手元を離れてしまった包丁はくるりと宙を舞い、新太の足元の床へと刺さった。



「……うわぁ……」



新太の絶句する声が漏れ、まさしく危機一髪、といった状況に、お互いサーッと血の気が引く音が聞こえた。



「……な、なぎさ。切るのは俺がやるからさ、鍋と味噌の用意してくれる?」

「……はーい」



うぅ、一応女子であるにもかかわらず、こんなにも料理ができないなんて……!

今まで自分ひとりだけのご飯だからと、買ってくるだけで、まともに料理もせずに暮らしてきた自分が憎い。



そうこれまでの自分を恨めしく思いながら、私は片手鍋をひとつ取り出し水を入れた。

となりでは新太がトントンと綺麗に大根を切っていく。




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