龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
「いいえ、心配して下さるのは嬉しいです。
私の方こそ、お願いします」

この返事をしたら、絶対にだめ。

答えたら、戻れなくなるから。

心の中ではそう思っているのに、口から出る言葉は真逆のもの。

でも、きっと。

今口から溢れたそれが、葵の本心だ。

でも、皐月と密かに会っていることが周りに知られたら大変な事になる。

一番知られてはならないのは、社主の繧霞だろう。


「皐月様と会っているのが、繧霞様に知られたらどうしよう……」


急に襲ってくる恐怖に、葵はぶるりと体を震わせながら呟いた。

もし繧霞に知られれば、必ず激怒する。

あの神は、怒りが激しいから。

それに、龍神は元々天候を司る神。

龍神の怒りは、必ず天災を呼んでくる。

葵は、その天災を防ぐための巫女だから。

それなのに、皐月との逢瀬で龍神の怒りを煽り、村に天災を呼ぶのか。

もしそうなれば、葵は巫女としての責任が問われるだろう。

神を裏切った巫女は、社主に罰せられる。

もし、責任を問われた場合、葵は自身の命を以て繧霞に処罰されるのだ。


「葵、大丈夫だ。
父は私がなんとかする」


肩を掴んで力強くそう告げる皐月を、葵は悲しげに見つめる。

大丈夫というその言葉は、とても心強い。

皐月の言葉なら、なおのこと。

しかし、本当にそうなのかと思う自分もいる。

皐月は繧霞の息子。

常に一緒にいるはずだ。

そこから抜け出しているのに、見つからないはずはない。

神の観察力と勘の鋭さは侮れない。

いずれ、この逢瀬を知られる日がくるだろう。
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