龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
「たとえ神であれ、命を軽んじてはならない。
……そうだったはずだな、繧霞」

「……はい」


今までに聞いたことのないくらい、沈んだ繧霞の声。


それを聞いている皐月の前で、緋月はさらに言葉を紡いだ。


「巫女は確かに贄として使われる。
しかし、お前には必要ないはずだ」

「どういう意味だ、緋月」


緋月の言葉が気になった皐月は、そう聞く。

すると、緋月はようやく顔を皐月に向け、口を開いた。


「そのままの意味だ。
あの村に、災害などありはしない」

「災害がない!?」


葵は災害を防ぐための力添えを繧霞に頼んでいた。

その代償のための、贄の儀だったはずだ。

なのに、必要ないのなら……。


「無駄な犠牲だったのか、葵は!!」


許せない。

どれほど葵が苦しんだというのだ。

どれほど届かない声を上げて、一人て泣いてきたと思っている。


「お前は……命を何だと思ってるんだ!!」

「皐月」


溢れて止まらない怒りをぶつける皐月を、緋月がやんわりと止めた。

そして、再び繧霞を振り返り、冷たい声を放った。


「お前は、やってはならぬ事をした。
よって、ここからお前を冥界に移動させる。
そして、巫女は取り上げだ」


文句は言わせない。

そんな声で緋月が告げる。

その声に、繧霞は逆らわず、頭を下げたままだ。


「……はい。
仰せのままに……」


それを確認し、緋月は皐月を振り返る。

今さらだが、緋月は月読命。

頭が高いのは失礼だ。

そう思い、皐月は膝を折ろうとする。

しかし、それを緋月は止めた。


「私に跪く必要はない。
お前は私の友、だろう?」

「……いいのか?」


そう聞き返す皐月に、緋月は淡い笑みを浮かべて頷いた。


「それよりも、地上に降りるぞ。
お前の愛しい巫女が待っているはずだ」

「あぁ」


皐月は頷く。

これでやっと、葵の所へ行ける。




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