龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~
†*†


「あの…絢嶺様、本気ですか?」


差し伸べられた手をとることが出来ず、葵は絢嶺を見つめる。

葵が逃げれば、この村の未来はない。

簡単には逃げる選択は出来ないのに……。


「そう言うと思いました。
でも、貴女はもっと自分を大切にするべきです」

「絢嶺様……」

絢嶺が躊躇う葵の手を掴む。

その時だった。


「やはり、我らを裏切っていたのですね、巫女姫様」


背後から聞こえた声。

この声は、老婆のものだ。


「婆……っ!」

「おかしいとは思っていました。
最近、貴女は夜に部屋にいませんでしたから」


まさか、ばれていたとは……。

いや、朝には怪しむような質問をされた。

もう、その時には確信に変わっていたのだろう。


「我らを見捨てるのか、巫女姫」


老婆の後ろから、村人が押し寄せてくる。

どの村人にも、怒りが現れている。


「何故……何故だ、巫女姫」


言い訳など、葵が言えるはずない。

裏切っていたのは事実なのだから。

どんな言葉も、受け入れる。

その覚悟は出来ている。

もう、自分の未来から逃げられない。

逃げたくない。

葵は歯を食いしばり、村人達を真っ直ぐな瞳で見つめる。

今だけ。

今だけどうか……。


(貴方の心の強さを、私に下さい皐月様……)
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