愛しい人
「実は、今日から新しいスタッフが来るんだ」

「新しいスタッフですか?」

「うん。シャッターの開け方から教えようと思ってる」

「そうだったんですか。それなら私が……」

「いや、小石川さんはもうここの店舗のスタッフじゃないから」

 樹の言葉に花名は目を見開いた。

「どういうことですか?」

「小石川さんは本社へ異動してもらうことにしたよ」

「どうして異動なんですか?」

本社勤務になると、病院もさらに純正の家からも遠くなってしまう。

「どうして? 変な客からスタッフを守るのも僕の役目だからね」

 花名はハッとした。”会いたくない客がいる”そう樹に行ったのは自分だ。

「あの話でしたらもう、大丈夫です」

 さすがに仲直りしたからとは言えないが、異動をする必要はもうない。

「なにが大丈夫なの。なにかあってからじゃ遅いでしょう? 僕は小石川さんが心配なんだよ。わかるよね」

樹はスタッフを思う素晴らしいマネージャーだ。それは彼の真剣な表情を見ていたら分かる。これ以上わがままを言うのは失礼だ。

「はい、お気遣い感謝します」 

「分かってくれたらそれでいいんだよ。じゃあ、明日の十時、本社に辞令を受けにくるようにね」

「承知しました」

 花名は樹に向かって深々と頭を下げた。 

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