愛しい人


「どうぞ」

 出された来客用のスリッパに足を入れ、樹の後をついていく。

玄関だけで花名のアパートと同じくらいの広さがあり驚いていたのに、廊下にはいくつものドアがあった。

いったい何部屋あるというのだろう。

ベイエリアにある築浅のタワーマンション。樹はここでひとり暮らしをしているらしい。

リビングへ入るといたるところにグリーンが置かれ、天井からエアプランツがつるされていた。

ひと際目を引いたのはテーブルの上におかれたミモザをベースにしたアレンジメント。

黒と茶を基調にした男らしいインテリアにポップなミモザの黄色が絶妙にマッチしている。

「本当に素敵なお部屋ですね。樹さんのイメージにピッタリです」

「花屋の息子らしい部屋ってこと?」

 いいながら樹は花名をじっと見つめた。

「それをいうなら、今日のそのワンピースは小石川さんらしくないね? 普段と全然違うし、意外」

「そ、そうですか? これは彼が買ってくれたんですけど……」

 純正は似合うと言ってくれた。でも本当は大人っぽいデザインなので自分には着こなせていないのではないかと思っていた。

樹に図星を突かれてすぐにでも着替えたい衝動に駆られる。

けれど、ワンピースを買ってもらった時に着ていた服は店から配送してもらうように依頼してしまった。

あれを持ってくればよかったと後悔する。

「……へえ、そうなんだ。あの先生はそういうのが好みなんだね。まあ、座ってよ」

花名をソファーに座らせると、鼻歌交じりでワインセラーを眺め、そこからボトルを二本取り出した。
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