イジワル副社長に拾われました。
私に気を遣っているのか、千絵は前の職場の話は一切してこなかった。

私も自分からその話に触れることなく、他愛のない話をして、楽しい時間を過ごしていた。

「千絵がしてるピアス、可愛いね。どこの?」

「あ、これ? この間英会話教室のみんながお餞別にってくれたの」

先端についている星が、千絵が顔を動かすたびにゆらゆらと揺らめく。

「結婚して向こう行っちゃったら、遠すぎて通えないから」

「でも千絵、すごいよね。彼が実家の家業を継ぐからって、そのために英会話もだけど、簿記の勉強とかもしてなかったっけ?」

「全然すごくないよ。私がやりたいと思ってやってただけだし」

照れくさそうに、でも幸せそうな笑みを見せる千絵の姿がうらやましい。

「でもやっぱりすごいよ」

「琴乃? どうかした?」

千絵とは正反対の、何もできない自分が情けなくて、少し声のトーンが落ちてしまった。

心配そうな顔を向ける千絵に、謝りを入れる。

「ごめんね。今私、自信をなくしてて」

「何があったの?」

「この間ね、ある人に言われたの。『お前はなんですぐにあきらめる』って。思えばそうなんだよね。昔から自分が我慢すれば収まることには、何も言わなかったし。進路も就職も、そんな確固たる意志もなく決めてきたし。そんな自分を変えたいとは思ってるんだけど、行動には移せなくて……。で、ますます自分が嫌になって、の繰り返しでさ」

「それは、琴乃がまだ、あきらめられないことに出会ってないだけじゃない?」

千絵が優しく微笑んで、私を見つめる。

「私さ、実は一度、優太くんに振られてるの」

「え? ウソ」

一度、千絵の彼氏の優太くんに会ったことはある。

いつもニコニコしていて、名前の通り優しくて、千絵のことをとても大事に思っている人。

てっきり私は、すぐに両想いになって付き合っていたと思っていた。

「っていうか、私、優太くんから告白したと思ってた」

「意外?」

「うん。千絵ってどっちかっていうと私と一緒で、自分からはあまりいかないじゃない」

「今まではそうだったんだけどねぇ。でも、私、優太くんのこと誰にも取られたくないって思ったんだよね」

「あれ? でも、優太くん、千絵のこと一目ぼれって言ってなかった?」

私の言葉に千絵がうなずく。

初めて見たときから千絵のことを、可愛いなと思ってたって優太くんは私に話してくれたことがある。

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