イジワル副社長に拾われました。
でも、だったらなぜ、優太くんは千絵の告白を断ったの?

「せっかく好きな人から告白されたのに、なんで?」

「将来的に実家に帰ることを理由に振られちゃったのよ」

昔を思い出すように、少し遠い目をしながら千絵が笑う。

「優太くんの実家、地元でも結構老舗の日本料理店でね。そこの女将さんになるってことは大変だっていうのを、自分の母親やおばあさんを見ていて感じてたらしくて。『千絵ちゃんにそんな苦労かけさせるわけにはいかない』って言われたの」

「じゃあ、千絵のことが好きだから、自分があきらめようとしたってわけ?」

「そう。私の気持ちも知らずにね。だけど、一度振られたおかげではっきりわかったの。やっぱり私は、優太くんのことが好き。優太くんと一緒なら、きっとどんな苦労も乗り越えらえるって」

「それでもう一度、告白したの?」

「うん。優太くんについていくために、もう勉強も始めてるって言ったら、しょうがないなって笑って抱きしめてくれたよ」

「そっかあ」

「琴乃にも、きっと見つかるよ。あきらめたくないものや、あきらめたくないこと。それが見つかったら、きっと琴乃だって変われるはずだよ」

「見つかるかなあ」

「なに弱気になってるのよ」

キッ、と千絵ににらまれて、私は肩をすくめる。

「きっと見つかるよ。もしかしたら、もう見つけてるんじゃない?」

アイスコーヒーのストローをくるくると回しながら、意味ありげな顔を浮かべる千絵。

その言葉に白井さんの顔が浮かんで、体の体温が上がるのを感じた。

「やっぱり。今は深く聞かないけど、ちゃんと終わったら報告してよね」

ニッコリと笑った千絵に、私は赤くなった頬を押さえてうなずくだけだった。






千絵と別れて、駅までの道のりをゆっくりと歩く。

好きな人と一緒にいることを選んで、自分にできることを見つけていった千絵。

仕事が大好きで、そんな自分でも受け入れてくれる人と一緒にいる未来さん。

ふたりとも、ちゃんと自分で決めて、しっかりと人生を歩んでいる。

私も、あのふたりみたいに胸を張って歩けるようになりたいな。

そのためにも、自分が今、なにをしたいのか、どうなりたいのか、しっかりと考えなくちゃ。

「……あれ?」

俯いた顔を上げたその先に、私は見知った顔を見かけた。

「白井さん……?」

道路をはさんだ反対側、ジュエリーショップの前に、白井さんが立っていた。

< 48 / 72 >

この作品をシェア

pagetop