イジワル副社長に拾われました。
もう、この一言を言って、全てを終わらせたい。

それしか思いつかなかった……。

それからはあっという間だった。

社長室から帰ってきて、新田さんに経緯を説明し。

「何考えてるんだ。直談判してくる!」

そう言って部屋を出て行こうとする新田さんや仲間たちに、あくまで自分で決めたことだから、とこれ以上何も言う気がないことを伝えた。

まだみんなは納得していなかったみたいだけど、渋々といった感じで私の気持ちを尊重してくれた。

そして、千絵。

「ごめんね、千絵の退職、ちゃんと見送ろうと思ってたのに」

「琴乃……」

千絵は、近々寿退社することが決まっていた。

彼が実家の家業を継ぐため、東京を離れるからだった。

「まさか私のほうが先に辞めちゃうなんて、ね」

おどけて笑う私とは対照的に、千絵は今にも泣きだしそうだ。

「琴乃、ホントに大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。何かあったらちゃんと相談するから」

「ホントだよ? 絶対だよ?」

うん、と小さくうなずいて、私は七年お世話になった職場を、あっさりと離れることになった。




会社を出て、トボトボと歩いていると、さっきまで我慢していた何かが色々とあふれ出てくるのを感じた。

「もう、イヤだ……」

思わず口にする、後ろ向きな言葉。

私が何をした?

普通に恋をして、普通に働いていただけなのに。

何で、失恋して、職も失う羽目になっているの?

失恋しただけなら、もしかしたら仕事が傷を癒してくれたかも知れない。

職を失っただけなら、優しい恋人が励ましてくれたかも知れない。

でも私は、そのふたつをいっぺんに失ったんだ。

人生のどん底。

私は今、そのどん底に落とされた気分。

どうやって這い上がればいいんだろう。

っていうか、もう這い上がろうとする気力も今はみなぎらない。

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