イジワル副社長に拾われました。
でもきっと、このままついていけば、何かは教えてくれるはず。

そう信じて、私は白井さんの後ろをついていく。

玄関で靴を脱ぎ、リビングへと通される。

黒を基調としたインテリアが並ぶリビングには荷物も少なく、白井さんらしいシックな作りになっていた。

「し、白井さんっ?」

座っていればいいのか、何をしていればいいのか戸惑っていると、不意に後ろから白井さんの手が伸びてきて、抱きしめられる。

「そのままで、俺の話、聞いてくれないか?」

いつもより近い位置で、キレイな低音ボイスが聞こえてきて、私は抱きしめられたままうなずいた。

「今年の秋に、俺、車にひかれそうになってる人助けてさぁ」

のんびりと、白井さんの声が直接耳元に響いてくる。

「ソイツ、勤め先のご令嬢と男取り合った挙句、仕事もクビになった上に事故に遭うとかついてない奴だなって思ったら、ほっておけなくなって、仕事紹介してやったんだ」

……それって私のことじゃないですか。

口には出さず、心の中でツッコミを入れる。

「最初は、ソイツがどこまで立ち直っていくか見てみたいっていう興味だけだった。だけど、新しい仕事を覚えて、周りのみんなといつも笑顔で会話して頑張ってる姿を見てると……、だんだん惹かれていくようになった」

「……っ!」

ギュッ、と私の体に巻き付く白井さんの力が強くなる。

「自分の気持ちを伝えようと思ったこともあった。でも、躊躇した」

「なんで、ですか……?」

「だってお前、絶対断るだろ。『私なんかが』って」

「……」

「図星だろ?」

「はい」

「断れるのが怖かった、って言ったら笑うか?」

「笑いませんっ!」

白井さんの言葉にかぶせるように、大きな声が出た。

一瞬緩んだ白井さんの腕から抜け出し、後ろを振り返ると、びっくりした顔の白井さんと目が合う。

「私、笑ったりなんかしません。だって、告白するのが怖い気持ちは誰だって一緒でしょ?」

「そうか?」

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