イジワル副社長に拾われました。
緊張で、最後の方は蚊の鳴くような声になってしまった。

しっかりと目を合わせていたはずなのに、視線もいつの間にか、自分の太ももに下りている。

ゆっくりと顔を上げると、白井さんはさっきまでと同じように、私を真っ直ぐに見つめていた。

まるで、私の告白はなかったかのように。

もしかして、私の声が小さすぎて聞こえなかったのかな?

「白井さん、私のさっきの話、聞こえてましたよ、ね?」

「ああ」

小さくうなずいたきり、白井さんから言葉は発せられない。

……やっぱり、私じゃ無理なんだ。

ああ、失恋決定なのね。

泣きそうな気持ちを隠して、私は必死で笑顔を作る。

忙しい中時間を作ってくれた白井さんに、ありがとうくらいは笑顔で言わなくちゃ。

「お時間作ってくれて、ありがとうございました。話も聞いてくれてありがとうございました。……それでは、失礼いたしますっ!」

ガタン、と勢いよく立ち上がり、深々とお辞儀をする。

お財布から千円札を抜き出して立ち去ろうとすると、千円を出した私の右腕を、白井さんがつかんだ。

「さっき言ったことは嘘か?」

「え?」

「俺のこと、あきらめないんじゃなかったのか?」

そう言ってニヤリと笑った白井さんは、私の腕をつかんだまま立ち上がる。

そしてそのまま会計をすませると、テクテク何も言わずに歩いていく。

白井さんに握られたままの右腕が熱い。

「し、白井さん。どこに行くんですか?」

私の質問に、白井さんの足がピタリと止まる。

目の前には、以前見たことのある白井さんの車。

助手席のドアをゆっくりと開けて、白井さんは言った。

「さっきの返事、聞かせてやるよ」






白井さんの車でたどり着いたのは、広いエントランスが目を引くマンションだった。

「あの、ここは?」

「俺ん家」

サラッと言い放ち、白井さんはオートロックを解除し、エレベーターへと乗り込んでいく。

車の中でも白井さんは何も言ってはくれなかった。

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