イジワル副社長に拾われました。
間違いなく、あれこれ白状させられるだろう。

「半年後くらいには俺も父さんの小説のネタかなあ」

「……そうならないように努力します」

しょんぼりと肩を落とす私を見て、航さんが小さく口角を上げた。

「琴乃が言わなくても情報提供者はいくらでもいるしな。時間の問題だよ」

「いくらでも?」

「父さんの次回作のヒーローは、世界中を渡り歩くカメラマンらしいぞ」

「それって、宗介さん……?」

「学生の頃にはよく家にも来てたからな。間違いなくクロにも話聞くだろうな。そしてアイツは琴乃も知っての通り、単純バカだ。あっさりバラすぞ」

航さんの声が、少し遠くで聞こえてきた。

ごめんなさい、航さん。

私、告白の前に結構自分の気持ち、宗介さんに吐き出してます……。

そんなことを航さんに言えるわけもなく、私は助手席で小さくなっていた。

「だけど、やっぱりすごいなあ、航さん」

再び走り出した車の中。

独り言のようにつぶやいた言葉は、狭い車内では航さんの耳にもしっかり入ったようで、「ん?」と聞き直す声が聞こえてきた。

「小さい頃からちゃんと自分を持って、行動してたんですね。私とは違うなあって思いました」

「まあ、じいさんに言われて育ってたからな。小さいときにはそれが当たり前って思ってた部分もあったし。だけど、俺だって少し迷ったこともあったんだぞ?」

「航さんが? 信じられない……」

「……就活でクロや他の友達が悩んでるときにさ、俺はこのままあっさりと香月に入社していいのかなって思ったこともあったんだよ」

その時、航さんへの想いを相談したときの、宗介さんの言葉が脳裏に浮かんできた。

『まだ自分の可能性に気づいてないお前のほうがうらやましい』そんなことを言われたって、この間宗介さんは言っていた。

「でも、航さんは後悔してないんですよね?」

私の言葉に、航さんは大きくうなずく。

「ああ。これから先も、香月がたくさんのお客様に愛される会社であり続けるために、出来る限りのことをしようってそう思ってる」

すごい。やっぱりすごいよ、航さん。

「その為には、お前の力も必要だけどな」

「え? 私?」

突然私の名前が出てきてびっくりする。

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