「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 



「どうぞ、こちらに座ってください」



担任の促す仕草が見えて用意された場所に着席する。



「お母さん、早速なんですが里桜奈さん、まだクラスに溶け込めないみたいなんですよね。
 先日も、HRに話し合ったりクラスの子達にも虐めの現状について確認したのですが、
 このクラスでは虐めの事実は一切確認されなくてそれよりも、
 皆、里桜奈さんにはいろいろと優しく手を差し伸べる状態でして。

 失礼ながら、ご家庭に問題があるのではと思いまして。

 最近、ご家庭で何か大きな変化はありませんでしたか?」



微かな聴力が捕らえるのは真実を封印した偽り話ばかり。



「家でのこの子はいい子ですよ。

 ただ学校に出掛けた後、学校の人たちの姿を見た後、酷く怯えまして
 学校側に問題があるのだと感じております」




言い返さなくていいよ、お母さん。
悪いのは私だから。




お母さんだって家ではずっと言ってるじゃない?


虐められるのは情けないって、何度も何度も。
だから……馴染めない私が悪いんだよ。



この世に生まれた私が悪いんだよ。




『そう……君が居たら世の中が迷惑するんだよ。
 君は要らない子なんだから』





心の中……また声が広がっていく。
静かに波紋を広げるように。



ゆっくりと蜘蛛の巣を張り巡らせるように。



もう、その場所に思考が繋がらない。
ただあるだけの存在になって、その時間をやり過ごす。



やり過ごした後、逃げ出すように会議室を飛び出して、
教室の荷物を手にして自転車へと向かった。




今日も下校時間はすでに過ぎて誰も存在しない。



いつものように犠牲になった自転車。



前かごのカバーには、真っ赤な油性マジックで書かれた
(死ね)の文字。




鞄から慌てて取り出したティッシュで、カバーを擦るものの
当然乍ら消えるはずもない。


……消えないじゃん……誰がやったのよ……。



枯れたはずの涙がゆっくりと零れ落ちる。






どうして、
どうして……私だけ?




自転車を置き去りにして荷物を抱えたまま校門を飛び出す。



次に走ってきた車の前に飛び出したら、
もうこの時間は終わるの?




これ以上……この存在をこの世界に晒さなくていいの?


誰にも迷惑をかけなくて良くなるの?


何も考えられないまま、
ただ……終わらせることだけを望みながら、
トボトボと道を歩く。



涙で視界が歪む。
滲んでぼやけるその視界。


いつもは、見ることを拒絶する目も、
聴くことを拒絶する耳も走ってくる車のライトと、
エンジンの音だけは鮮明に捕らえた。







……車が来た……。








これで全てを終わらせられる。






何も考えずにその走ってくる車の前に、
フラリと体を一歩踏み出す。



車は大きく反対車線にハンドルを切って私の前に静かに止まる。



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