「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 




えっ?
何?




ピアノ?
ギター?





微かに聴こえるその音はとても優しくて、
空間全てを包み込むように部屋の中を振動させて伝わって、
聴覚をくすぐっていく。




「……音……聴こえる……」

「煩い?」




慌てて首を左右に振る。


煩くなんてない。



「もっと聴いていたい……」

「そう。ならもう少しボリュームあげてやるよ。

 この時間帯なら直弥も文句言わないだろうから」


その言葉の後、彼は自分のベッドに戻って機械を触る。
微かにくすぐってた音が今度はメロディーとなって耳に刺激を与えていく。


繊細なピアノのライン。
重なり合う二つのギター。


心地よい低音の音色。
そして……ドラムの音。



やがて、その音は自分の中で大きく重なり合っていく。

最後に響いたのは切ないけど……温かくてやわらかい……歌声。



また……涙が零れ落ちる。






「……綺麗……」

「おっ。
 今の言葉、本音だね。

 何、里桜奈ちゃん、この曲の良さがわかるの?」



楓我さんはまたそう言いながら近づいてきて私のベッドに腰掛ける。




「良さって言うか……初めて聴きました。
 こんなにも魂(心)に響く歌があったんですね……」





なんだろう。
その音の洪水の中に身を委ねるだけで温かくなっていく。



枯れていた心にゆっくりと泉が湧き出すのが感じられる。



凄く優しいメッセージ。

温かい想い。

温もり。





そのどれもが優しく柔らかく包み込んでいく。





光の存在……。




「……生きてて良かった……」



気がついたら自分でもびっくりするほどに、そんな言葉を呟いていた。
涙で滲む視界はそのままに。







「ドアホっ!!楓我っ。ボリューム、下げろ」



その音を遮断するかのように誰かの声が響き渡る。



「あっ、やばっ」



その人の登場に楓我さんは慌てて自分のベッドにとんで逃げて、
ボリュームを少し下げた。


だけどデッキを私の近くに動かしてくれて。

顔を上げるとそこには背の高い男の人が二人、
白衣だと思うものを身につけて並んでた。



体が萎縮する。



さっきまで、あんなに温かかった心の中が凍りつき始める。



「直弥。だから直弥と一緒に来たくなかったんだよ。
 私は」



少し怖いとっつきにくそうな表情の人と、
柔らかい笑みを浮かべたその人。


二人のうちの、優しい雰囲気の人が怖い人を押しのけるようにゆっくりと近づいてきた。

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