「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 


「初めまして。伊舎堂裕【いさどう ゆたか】です」



にっこりと微笑んだ。


「あぁ、里桜奈。別にとって食いやしないから。
 その人はコイツの同僚。

 ほらっ、そこ見てみな。
 里桜奈ちゃんの頭元名前書いてんだろう」


頭元のプレートには(Dr.伊舎堂裕 Dr.須藤直弥)


「……あっ……本当だ」

「なっ。
 まぁ直弥は医者らしくないから別として、裕さんは安心していいから」


えっ?
楓我さん。

さっきから須藤先生のこと、むちゃくちゃ言ってない? 
益々、須藤先生の表情が不機嫌になってく。


「あぁ、里桜奈ちゃん。直弥の表情は気にしなくていいから。

 この人、兄貴の友達なんだよね。
 だから昔から良く知ってるんだ。

 俺の体、任せられる程度には信頼してる。
 安心していいよ。
 
 性格には問題ありだけど腕は保障できるから」


「楓我っ、いい加減にしろ」


そう言いながら楓我さんの周囲のカーテンをひいてしまう。
遮断された空間。



「びっくりしたかな」



その声に小さく頷く。



「起きた気分はどう?」

「今は落ち着きました。
 最初は生きてることに後悔したけど……」



本音で吐き出した言葉にその人は「今は?」っと優しく切り替えす。


「さっきと一緒だ……」



思わず、楓我さんの言葉を思い出してクスクスと笑みが零れ落ちる。



「楓我くんと仲良くなったの?」

「仲良くって言うか……楓我さんには私が見えたみたいだから」


「そう。里桜奈ちゃんが見えるのは楓我君一人だけじゃないから。

 私にも見えてるし、勿論、直弥にも。
 直弥は私のビジネスパートナー。

 自己表現が下手なだけで根はいいから安心するといいよ」



裕先生と言葉を交わしていくたびに萎縮していた心が少しずつほぐれていく。



「大丈夫……今は落ち着いたから」



この音に出逢えたから……。



今も小さく部屋の中に響く優しいメロディー。




この音に出逢えたから……だから……。




「そう。首は危ないから刃物は使わないことって言っても発作的で覚えてないかな?
 腕の傷の方はすぐに治ると思うよ。
 
 女の子だから傷は目立たないほうがいいよね。
 そっちは直弥に任せておいたから可愛いお洋服もいっぱい楽しめるからね。

 私が気になってるのは、心の問題かな。

 部屋で倒れているところをご両親が発見して、
 ここに運ばれてきたんだけど、学校で辛いことがあったのかな?
 心の問題は焦らないでゆっくりと通院しながら歩いていこうね。

 里桜奈ちゃんが少し落ち着くまでは、ご家族の方の面会もご遠慮して貰えるように伝えているから
 安心するといいよ。

 この場所にいる間は、ゆっくりと心も体も休めて治していきましょう。

 ご両親から預かった着替えの洋服や、タオルなどの必需品は看護師に、クローゼットに入れて貰っているので
 後で確認しておいてくださいね」



裕先生は優しいトーンでゆっくりと伝えると、
須藤先生と一緒に病室を出て行った。



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