「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 


「そう。それで外の話題になって発作が出ちゃったんだね」


裕先生の言葉に小さく頷く。


「まぁ、楓我の方は直弥しだいだけど里桜奈ちゃんは発作を起こした後だけど、
 今も買いに行きたい気持ちはあるの?」

「怖いけど……CDは欲しいから……」


「わかった。
 発作が起こったらすぐに対処しやすいように私がついていくよ。

 私も買い物したいものがあるからね。
 里桜奈ちゃんはお出掛けの準備していていいよ。

 楓我は直弥を説得した後、里桜奈ちゃんと一緒に 一階のロビーまでおいで」



あっと言う間に決められたスケジュール。


突然のことに戸惑いながらも今はAnsyalのCDのことしか考えられなくて。 



小さな病室内のクローゼット。
紙袋に入ったトップスとスカート。



適当に持ってきたらしい服に身を包んで準備完了。



鏡をチラリ。
……なんか……可愛くない。


もっと可愛いお洋服持ってきてくれたら良かったのに……。

小さく、一人呟く自分の言葉に驚く。



今、私……可愛くなりたいって思ってた……。

着るものなんて、どうでもいいって思ってたのに……、
この場所にいると私がドンドン、人になれる気がする。



直弥先生の許可を無事に勝ち取った楓我さんは、
病室で見慣れない私服に着替えてカーテンを開ける。



「お待たせ」


ゆっくりと差し出された手に戸惑いながら、
その手をゆっくりと握り返す。




……暖かい……。



「こうしてたら、一人じゃないってわかるよね。
 ロビーまで行こうか」


病室からこんなにも長く外の距離を歩くのは久しぶりで。


学校と自宅の往復。
病室とお手洗いの往復。

そんな世界しか知らなかった私には、
やっぱり目に映る世界は新鮮だった。



「直弥に許可貰えたみたいだね」


ロビーで一足先に待っててくれた私服姿の裕先生。


白衣のときとは全然違ってて凄く大人な感じがして、
二人の男の人と出掛けるの事態が初めてでドキドキする。

しかも二人とも人気者なのか、
擦れ違う人がチラチラと二人を見ていく。



私なんか場違いだよ……。




擦れ違うたびに感じる痛い視線と、
誰かがしてる会話が全部自分を拒絶してる気がして、
突如、湧き上がってくる吐き気と同時に歩くスピードが遅くなっちゃう。



一人、遅れた私に気がついて差し出される手。


その手を取るのが今度は怖くて。



「大丈夫だよ。
 気にしなくていいし、考え込まなくていいから。

 里桜奈ちゃんは里桜奈ちゃんだよ。
 周囲は何も言ってない。
 
 ゆっくりと休みながらで大丈夫だから、
 里桜奈ちゃんは自分の意志で、外の感じようと真実は何も見えないんだよ」



震える体に優しく手を添えながら、
厳しいことを告げる裕先生。



私がちゃんと外を感じようとしないと、
真実は何も見えない。


何とか震える体をやり過ごして真っ直ぐにな前を向くと、
下を向きそうになる私自身と葛藤しながら裕先生の高そうな車に乗り込む。
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