「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 


「はいはいっ。
 そう言ってる間は紗雪ちゃんもまだまだなんだけどね。

 僕は純粋に音と向き合ってほしいよ。
 どれも僕にとっては、そのメーカーの中でのお気に入りのセットなんだけどな。

 まぁ、そう言うと思ってたからDWの部屋開けてるよ」

「有難うー。
 んじゃ、空音来たら中に通してよ」

そんな会話を楽しんで、紗雪は私たちを奥の部屋へと連れて行った。

分厚い扉の向こう側。
後方部には、ドーンと一際存在感を放つのはドラムセット。


こんなにも沢山、並んでるんだ。


その両サイドには、黒い大きな箱。

その箱には、スピーカーらしい部分とコード繋ぐらしい穴。
何かを調整するらしい『ツマミ』みたいなものが並んでいた。


「悪い、紗雪遅くなった」


そうやって、滑り込んできたのは知らない男の人。

両肩に大きな鞄を引っかけて手にも大きな鞄を持って登場する。


「ってか、空音遅いよ」

「悪かったって。
 遅いって文句言うなら機材を全部、俺に持ってこさせるなって。

 ギター二本とベース。
 一人で家から持ってこさせるバカが何処に居んだよ」

「だってアンタんちにしかないんだから仕方ないでしょ?」


なんて言いながらその人は部屋の中に入ると手慣れた手つきで、
いろんなコードをBOXに差し込んでいった。



「あぁ、里桜奈紹介するよ。

 コイツ、朝日奈空音【あさひなくおん】。
 コイツもチームの関係者。

 都葵の幼馴染で、私にとっては腐れ縁」



そう言いながら、紗雪はケラケラと笑いながら私に紹介する。

ギターをケースから出して弦をチューニングしていた手を止めて、
朝日奈さんは私の方へと視線を向けた。



「里桜奈ちゃんだった?
 紗雪や都葵にしては珍しいタイプだよね。

 朝日奈です」

「あっ、えっと……吉崎里桜奈です」



朝日奈さんに言われた【珍しいタイプ】って言う言葉が、
チクリと心に突き刺さって思うように、すぐに言い返せなかった。


少しずつ前進してるって思ってるのに、
まだまだ……私は臆病だよ。



「こらっ、アンタ。
 またやってるよ。
 里桜奈、追い詰めちゃダメじゃん」

「何もやってねぇだろっ。
 ただ挨拶してお前らの友達にしてた変わってんなって思ったから言っただけだよ」

「ほらっ、また言ってる。
 アンタのその一言が余計だって言ってんのよ」



目の前で、言い合いを始める里桜奈と朝日奈さん。
そんなやりとりが、不謹慎だけどちょっと楽しくて思わず笑い出してしまった。


「里桜奈?」


笑い出した私に紗雪が朝日奈さんと言い争ってたのを
ピタリと止めて私の方に向き直る。
  

「ごめん……笑っちゃいけないのに」

「何言ってんの。

 しゅんとして暗い顔されてるよりリラックスして笑ってるほうがいいに決まってんじゃん。
 作り笑いされてるより、よっぽどいいよ。

 んじゃ、都葵……空音一曲いってみようか」



紗雪がそう言うと都葵さんはドラムの前へ。
朝日奈さんは、ギターのストラップを肩から引っ掛けて腰のあたりで構える。

そして紗雪は、朝日奈さんに持って来させた十夜が持ってるギターに良く似た相棒を構える。

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