「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 

学校の授業、放課後の同好会の練習。


その後に診察日には病院に顔を出して、
楓我さんの病室を訪ねて、慌ただしくバイトに出掛けて
寮の門限すれすれに部屋に帰り着く。


寮に帰って宿題だけ必死に片付けると、
その後は、またAnsyalの曲を聴きながら、
アンプを繋げずにギターを抱えて朝まで練習を続ける。



睡眠時間を削ることしか選択選択肢はなくて睡眠不足は、
集中力を損なっていって悪循環になってるのを感じながらもやめることは出来なかった。


授業中に気が付いたら、うつらうつらと舟をこいで居眠りをしてしまう時間。
シスターに注意されて、慌てて起きるもののまた暫くすると睡魔に意識を持っていかれてしまう。


何処に居ても脳内にはギターが頭の中に浮かんで、
必死に演奏するコードを思い浮かべながら指先を動かしづける。



10月上旬に行われた中間試験。
結果は散々だった。


赤点は免れたものの、前回の成績から一気に降下してしまった私は保護者の呼び出しコース。



「里桜奈、情けない。

 何してるの?
 もっと真面目に勉強しなさい。

 軽音同好会ですって?里桜奈を遊ばせるために高校に入れてるわけじゃないのよ。
 成績が維持できないようなら、軽音同好会なんてやめてしまいなさい」



保護者面談の後、母はお小言のみを残して電車で帰って行った。
駅まで母を見送った帰り道、久しぶりに消えてしまいたいと思ってしまった。


その日はバイトは入っていなくてスタジオを借りて、
空音さん達との練習が予定には入っていたけど、
気持ち的にはそれどころじゃなくて……紗雪の携帯を呼び出す。



「もしもし、里桜奈。
 今、終わったの?呼び出し?」

「うん……終わった……終わったけど、ゴメン。

 今日はちょっと行けそうにないよ。
 皆にゴメンって謝ってて」


それだけ言い終えると、私は電話を切って電源まで落とした。



かと言って行きたいところなんて思いつかないし、
楓我さんのところに行くと、泣きついて終わってしまいそうで。



思い通りにならない現実。
もっと効率よく何もかもが出来ればいいのに……。



『情けない』



母が残したその言葉だけが何度も何度も脳内にリフレインして、
公園のベンチに座りながら流れる涙をハンカチに吸い取った。



気が付いたら、いつの間にか陽が落ちて周囲は薄暗くなってる。



そろそろ帰らなきゃ。




ベンチから重怠さを感じる体を起こして、
学院の寮へと続く大通りの方へと歩いていく。


とぼとぼと下を向きながら歩く私は、
ただ世界から疎外されたみたいな感じだけが支配してた。




『君はいらない子だよ。
 誰にも求められない、必要とされない役たたずな君なんて消えちゃえばいいよ』



心の中、ずっと聴こえなかった声が数年ぶりに私の中を支配していた。

そんな声に必死に目を背けながら、
私は逃げるように寮へと続く帰路を急いだ。



部屋に戻ったら裕先生が出してくれてるお薬がある。


薬を飲めば、ちゃんと落ちつくはずだから……。
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