夏の終わりの失恋歌(恋愛中毒1)
……あーあ、もう。
  夏休みが明けたらすぐに二十歳の誕生日だって言うのに。
  彼氏に祝ってもらったり出来ないなんて、サイアクー

そんなことを思いながら、彩華は店を出た。


「オツカレサマ」

階段を降りたところにある路上の電柱に、伸彦がもたれて立っていたので、彩華は心底驚いた。

「……な、何してんの?」

「エイジに言われたっていったろ?
放って帰れるわけない」

「あのねー、別にエイジに監視されているわけじゃあるまいし」

「……うっさいなぁ」

投げ捨てるように伸彦は言うと、彩華の手を掴んで歩き始めた。

「ヒコ?」

「とりあえず、ここ、学生多すぎ。
さっきから知り合い何人にあったと思う?」

「そ、それはヒコが知り合い多すぎなだけだと思うんですけど?」

男女問わず、伸彦の周りには人が集まる。
それが、人望によるものか、容姿によるものか、もてるからか、はたまたどんな魅力があるのか。
じっくり分析したことはないので、彩華には良く分からない。

人間性ではない、ことだけは確かだと思うのだが。

「面倒だから、うちに来て」

えっと、女の子を家に連れ込むのにそこまで色気のない誘い文句もどうかと思うんだけど、と言いかけて、彩華はさっぱり自分が女性扱いされてないことを思い出した。

「近い?」

「彩の家よりは」

「ヒコの彼女、怒らない?」

そうだ、これこれ。
確認しておかないと!

はぁ?と、手を離して伸彦が振り向いた。

「俺、恋人作らない主義って、言ってなかったっけ?」

「ごめん、知らなかった。
手帳にメモっとくね」

伸彦はやれやれ、といった感じで歩き出す。
彩華は慌ててその背中を追った。
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