夏の終わりの失恋歌(恋愛中毒1)
偶然、こんなに近づいたってこと?

彩華は頭を抱える。

まぁ、確かに母はずーっといろんな人に声を掛けていたから、たまたまヒコだっただけで、ほかの誰かでも同じ事は起きたのかもしれない。

「アリガトウゴザイマス」

棒読み加減に言って、頭を下げる。

「ドウイタシマシテ」

同じ感じで伸彦が返してきたから、二人で顔を見合わせて笑った。

もっとも、きゃっきゃと笑うのは彩華だけで、伸彦は苦笑しているだけのようにも見えたが。

落ち着いた彩華はケータイに手を伸ばす。
ゆっくりと電源を入れた。

「一緒に居た人、うちのサークルに居た人だっけ?」
「林野さん?
崇城さんと同じバンドのボーカルやってたじゃん。
覚えてない?」

伸彦はいぶかしむ。

「そんときはね、そーじょーさんしかみてなかった気がする」

……明のドラムを叩く姿が好きで、そればかりみていた。
  何よりも明につきまとっていた。
  明しか、見えなくて。

「……バカだよね、私」

「そう?
 恋する人なんて皆似たり寄ったりなんじゃない?
 冷静に恋愛できる達人なんて、この年じゃ少ないよ、きっと」

くしゃ、と、伸彦の手が彩華の髪を撫でた。

このまま抱きすがって泣いちゃったりとかしたら、楽になれるのかなと、甘い考えが彩華の脳裏を掠める。


……いや、でも、相手はあのヒコだし。

「そうかもね」

何とか踏みとどまって、伸彦の手が頭を離れるのを待った。

電源を入れたケータイは別に何の変化も起きなかった。

「着信拒否、しようっと」

言葉に出して、あえて決意を明確にする。



---崇城明---


ケータイでその文字を見るだけで、涙が浮かんできた。




好きなのに、
好きだったのに、


何が悪かったんだろう。
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