どうしてほしいの、この僕に
 上京してからというもの、帰郷するのは年に一度、両親の命日だけだった。それもまさにとんぼ返り。空港から墓地に直行し、墓参りが済むとまた飛行機に乗って帰る。故郷に立ち寄る場所はない。仏壇は姉のところにあるし、私にとって故郷はもはや墓参するだけの土地になっていた。
 助走でグンと加速し機首を上げて離陸する。地上を離れるとあっという間に雲海へ突入したらしく、機内の小窓からは綿菓子のようなふわふわした白い雲しか見えない。手持ちぶさたになった私は前の座席ポケットに手を伸ばした。
 引っ張り出したのは女性向けのファッション雑誌だ。表紙が下向きになるように取り出すと、どうやっても不自然になるのだけれども、そうせざるを得ない。
 なぜなら表紙が白いシャツのボタンを全開にした優輝だからだ。しかも物欲しそうな目でこちらを見ているから、いっそうたちが悪い。
 さらに言えば、表紙に躍る活字がまったくもっていただけない。
『守岡優輝、初恋を語る』
 なんて書いてある。これを見た瞬間「過去は捨てたんじゃなかったのか」と、ものすごい勢いでツッコみましたよね、当然。
 パラパラとページをめくる。もう何度も読んだから、目新しいページは見つからない。それでも一人旅のいい退屈しのぎになる。
 優輝のインタビューが載っているあたりを飛ばそうと、思い切って数ページをつまんで開く。目に飛び込んできたのは優輝がだらしなく足を投げ出して座っている写真で……。

 ——恋愛要素のある作品に出演されることの多い守岡さんですが、ご自身の恋愛観をお聞かせください。
「僕は基本的に何事にもこだわりがほとんどないので、恋愛に関しても同じです。恋愛観を語れるほど恋愛経験もありませんし。ただ一度好きになった人のことは、なかなか忘れられないんです。だから初恋が僕の中ではまだ終わっていない(笑)」
 ——ということは、今でも初恋の人が好き?
「たぶん(笑)」
 ——初恋はいつ? どんなタイプの女性ですか?
「高校生のときです。ちょっとした運命の出会いでしたね。表情がくるくると変わる、見ていて飽きない人でした。芯は強そうなのに、脆い一面もあって、ついかまいたくなる(笑)」
 ——意外ですね。守岡さんはとてもスマートな印象ですが。
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