どうしてほしいの、この僕に
 変な顔をしている優輝に背を向け、いそいそとおかゆを盛り付けながら、どこかおかしいんじゃないか、と自問する。
 この状態、明らかに普通ではない。いきなり彼の本心を問いただすとか、彼が私を好きだと思い込みたくなるとか。昨晩なんかもう少しで襲いかかりそうだったし。
 ——私、どうしちゃったんだろう。どうすればいいんだろう。
 一刻も早く解決方法を見つけなければ。

 結局、優輝はただの風邪だと判明し、ひとまず私もホッとした。
 翌日はスペシャルドラマのキャストおよびスタッフの顔合わせで、私は優輝より早めに家を出て、姉と合流した。
 いよいよ私の女優人生がスタートする。
 ミーティングが始まる前にトイレに寄ると、気合が入りすぎているのか、鏡に映る私はいつも以上にガチガチの表情だった。
 これはまずい。頬に手を添え、上下に動かし、緊張をほぐそうと試みる。
 そのときスラリとした女性が入ってきた。
 金髪にサングラス、そして青い光沢のある布地を身体に巻きつけたサリー風の服装——脚本家のサイティさんだ。
 私から挨拶すると、彼女は先日と同じオレンジ色の唇に妖艶な笑みを浮かべた。
「よいところでお会いしたわ。これをどうぞ」
 そう言ってサイティさんは大きな天然石がひとつ編み込まれているプレスレットを差し出した。
「いえ、あの……」
「成功のお守りよ」
「いただけません。これって高価なものですよね?」
「気にしないで。私が作ったものだから」
 手作りのアクセサリーとは思えない凝ったデザインだ。私は目を丸くしたまま一歩下がる。しかしサイティさんは私の手首をつかみ、無理矢理ブレスレットを握らせた。
「期待しています」
 彼女はまた口元に艶やかな笑みを浮かべ、奥の個室へ向かった。
 その背中に「ありがとうございます」と声をかけてトイレを出る。
 通路を歩きながら首をひねった。こんなことが前にもあったような気がする。
 ——そうだ。トイレ!
 確かコマーシャルのミーティングが西永さんのオフィスであって、そのときトイレでスタッフの女性に話しかけられたはず。
 名前は竹なんとか……えっと竹森さん、だったかな。
 私なんかよりもよほどモデルらしい、スタイル抜群の女性だった。
 ——あの人とサイティさん、なんだか似てる。
< 178 / 232 >

この作品をシェア

pagetop