どうしてほしいの、この僕に
 なるほど、高木さんは優輝のマネージャーだが、姉の運転手でもあるということか。私もさんざんお世話になった身なので、彼に足を向けて眠ることはできないけど、それにしても本当にそれでいいのか、高木さん。
 しばらくすると見慣れた黒い車が近づいてきた。
 私たちは素早く乗り込んで、ドアを閉める。尾行する車やカメラマンはいないようだ。すぐに車は発進する。
「未莉があのド派手な脚本家からプレゼントをもらったのよ」
 姉がバッグからブレスレットを取り出し、優輝のほうへ差し出した。
 受け取った優輝はてのひらに乗せてみて、それからひとつだけはめられている大きな石をつかみ、手を返しながらいろいろな角度から検分する。
「これは持っていてはいけないものですね」
 言い終わる前に窓を開け、隣を走る軽トラックの荷台へひょいと放り投げてしまった。
「あーーー!! なんで!?」
「趣味、悪いな」
「でもかなり高価なものでしょ? いきなり捨てるなんて……」
 優輝は私を憐れむような目で見た。
「高価だとなんでも受け取ってしまうんだ?」
「私だって一応断ったけど、無理矢理握らされたんだもの」
「一応、ね」
 ため息交じりにそうつぶやくと、優輝はシートに埋もれるようにずるずると腰の位置をずらした。
 助手席から姉が「やっぱり?」と訊いてくる。
「ええ、たぶん超小型の発信器が仕込まれていました」
「はぁ!? 発信器?」
 思わず叫ぶ。ということは大きめの石の中に発信器が?
「成功のお守りだと言ってたよ」
「どうやら未莉の居場所を特定したいらしいね。スクープを売る気か、もっと別の悪事を企んでいるのか、これだけでは判断できないけど、あの脚本家が未莉に気があることは間違いない」
 気があるのではなく、目をつけられているのだ。全然嬉しくない。
 そういえば、と私はトイレで感じた妙な寒気を思い出した。
「サイティさんって、私、前に会ったことあるかも」
「……どこで?」
 優輝は険しい表情でこちらを見た。
「西永さんのオフィス。ね、お姉ちゃん、コマーシャルの打ち合わせで行ったときに背が高くてモデルみたいに美人なスタッフがいたの、覚えていない?」
「んー、覚えていないわ」
「名前は竹森さんだったかな。その人、私がオーディション受けたときにも見ていたって……」
 姉が息を呑んだ。
「話をしたの?」
「うん、トイレで」
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