どうしてほしいの、この僕に
「俺を心配するなら早く上がってこい」
 そう言い置いて優輝はバスルームを出ていった。ひとりになった私は、一連のできごとについていけず、首をひねる。
 まず、住居が火事になり真夜中に焼け出されたから、唯一の肉親である姉に電話して助けを求めた。ここまでは何も間違っていないはず。
 問題は姉のマンションに着いてからだ。
 えっと、ここは姉のマンション……だよね?
 姉も電話では30分くらいで来るって言ったよね?
 だけど実際にやって来たのは、姉ではなく、なぜか守岡優輝だった。……なんで?
 しかも優輝は私に『お待たせ』と言ったような気がする。つまり、優輝は姉に頼まれて私を迎えに来たということ?
 そして優輝は姉の部屋のカギを持っていて、私をここへ運んでくれた。部屋の内部は玄関からバスルームまでしか見ていないけど、明らかに姉が住んでいたときと家財が違っている。余計なものは一切なくてシンプルなのだ。姉があんな色気のない黒い傘を使うとは思えない。
 ということは、ここは優輝が住んでいる部屋なのだろう。
 結局、わからないのは姉と優輝の関係だ。そういえばひと月前のあの夜、優輝は『紗莉さんには恩があるんでね』と言っていた。それがこの部屋……?
 考えても答えが出るわけではない。
 とりあえずパジャマを脱いでバスルームの外へ置く。足を洗って、シャワーを浴び、バスタブに浸かった。温かい湯がじんわりと身体の内部の緊張をほぐしてくれる。真冬の寒空の下、パジャマにコートをはおっただけの姿では冷えて当然だ。風呂を貸してもらえたのは、本当にありがたいことだった。
 バスルームから出ると、タオルと着替えが用意されていた。いつの間にか優輝が置いてくれたらしい。
 着替えのパジャマは男性用で私にはぶかぶかだったけど、なんだかほっとした。だってここで女性用のパジャマが出てきたら、どうしたらいいかわからなくなるもの。
 それにしてもこのパジャマ、どうやらシルクなんです。いや、タグを見たから間違いない。シルクなんです!
 ますます私が着ていた安物のパジャマが恥ずかしくなる。もう、いっそのこと捨ててしまいたい。そう思いながら安物パジャマを小さく丸め、洗面所から廊下へ出た。
「お風呂、ありがとうございました」
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