どうしてほしいの、この僕に
「彼が自分で決めたことよ」
「だけど私が笑えるようになったのは、優輝のおかげだよ」
「そうね」
「罰なんて……そんなのおかしいじゃない!」
 運転席で高木さんが「未莉ちゃん」と力なくつぶやいた。
「アイツはアイツなりに君を守ろうとしているんだ。君の女優としての人生は始まったばかりだろ。そこにアイツが関わりすぎるのは、影響力が大きすぎるゆえに未莉ちゃんのためにならない。ここから先、君は自分の力で君の道を行かなきゃならないんだ」
 ——自分の力で、私の道を……。
 ハンマーで頭を思い切り殴られたような気分だった。
 いつの間にか、仕事もプライベートも優輝に頼りきっていたのだと今になって気がつく。
 私の毎日に彼がいてもいなくても、いつだって私は柴田未莉として生きていかねばならないのだが、そんなことも忘れてしまうほど、彼がそばにいるのが当たり前になっていたなんて……。
「守岡くんと未莉のスキャンダルが世に出れば、未莉は潰されるかもしれない。それは彼にとって本意ではない、ということよ」
 姉は淡々と説明した。
「そう。でもどうして私にひとこともないのかな?」
「仕方ないわ。ここに来る途中で決めたのよ」
「そっか」
 私はいつも優輝がするようにシートにだらしなく身を預けた。彼ほど足は長くないし、ポーズも決まらないけど、なんとなく彼に包まれているような感覚があって、胸がきゅうっと縮む。
 どれほどあがいても優輝の気が変わることはない。それが嫌というほどわかるから、私の心は完膚なきまでに打ちのめされていた。
 ——これが私に与えられた罰か……。
 だけど私は知っていた。いつかこんな日が来ることを。
 優輝に保護されたあの夜から、いくつもの罪を重ねてきた私だから。

 その後、私は3日間の入院生活を送ることになった。
 スタンガンをあてがわれた場所のやけどを治療するついでに、頭部や血液の検査を徹底的にしてほしいと姉が懇願したのだ。
 2日目の夜、おとなしくベッドに横たわっていることができなくなり、ケータイを手に取った。待ち受け画面を眺めていると、次第に胸の鼓動が大きくなる。
 ——ええい! かけてしまえ!
 意を決して優輝の電話番号をタップする。
 呼び出し音が鳴る間、全身が心臓になってしまったかのようにドキドキした。今にも破裂しそうだ。
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