どうしてほしいの、この僕に
「未莉がここでやるべきことは、正義感を振り回すことでも、探偵ごっこでもない。俺を利用して女優になる——違うか?」
「利用? そんなこと、できるわけな……」
 その先を続けることは許されなかった。優輝の唇が私のそれに重なったのだ。
 頭の中が真っ白になる。
 何が起こったのか、何を考えればいいのか、何もわからない。危うく自分が誰なのかもわからなくなりそうなくらい私の脳はパニックに陥った。
 気がつけば優輝が私の肩をつかんでいた。その指には痛いほど力が込められていて、肩に食い込みそうだった。
 そんなに強くつかまなくても、私は逃げることなどできないのに。そう思う反面、この痛みが愛おしく感じられ、もっと強い力でつかまえていてほしいと願ってしまいそうになる。
 どうしてこんなことを想うんだろう。
 寂しいから? 支えてくれる逞しい腕にすがりたかったから?
 それとも優輝がまれにみる端正な顔立ちで、さらには長身で均整の取れたプロポーションの持ち主だから?
 違う。——でもきっとそう。
 認めたくはないけど、私はやっぱりずっと寂しかったんだと思う。優輝みたいな人にどっぷり甘やかされて、もう何も心配せずにぐっすり眠りたかった。バカじゃないかと笑う人もいるだろうけど、そんな少女趣味丸出しの夢を本気で憧れるくらい、誰かの愛情に、ぬくもりに飢えていた。
 少し開いた唇の間から優輝の柔らかな舌が入り込み、じれったいほど丁寧に口内をなぞる。何かを探すように動く彼の舌につられて私もほんの少し舌を動かすと、あっという間に絡め取られ、重なるふたつの唇が音を立てた。
 その途端、私の中でぷつりと糸が切れる。
 もう受け身に徹しているのは限界だった。目を閉じて優輝の舌の動きとその感触だけを追いかける。胸の奥からわき起こる感情だか本能だか判別不能のうねりに身を任せ、思い切って優輝にぶつけた。
 どれほど時が過ぎただろう。
 さすがに苦しくなってのどの奥を鳴らすと、優輝がフッと笑って唇を離す。
「意外に情熱的で、夢中になっちまったな」
 突然、大胆なふるまいについて言及され、顔がボッと火がついたように熱くなった。
「ごめんなさい」
「褒めているのに、そんな顔するなよ」
「だって……恥ずかしい」
 うつむいてそう言うと、優輝は私の頬を撫でた。
「そういうの、悪くない。でも俺だけにしとけ」
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